がん・老化・生活習慣病… 恐ろしい「 活性酸素 」の害を防ぐには

ミトコンドリア工場で必要となる微量栄養素は、ビタミンB1、B6、B3、B12あるいは鉄や亜鉛、マグネシウムなどたくさんあります。また、工場のメンテナンスにも微量栄養素は欠かせません。ミトコンドリアは、猛毒である酸素をエネルギー源として扱っているため、膨大なエネルギーを生み出すのと引き換えに、工場そのものが酸化するリスクをこうむりやすい面があるのです。

それが、よく知られている「活性酸素(フリーラジカル)」の存在です。
ミトコンドリア工場の最終工程の電子伝達系は、電子を運搬しながらエネルギーを生み出していますが、酸素にこの電子が結合すると、ほかの物質を酸化させてしまう不安定な酸素、つまり活性酸素が生まれやすくなります。ビタミンやミネラル、そして植物の活性成分ファイトケミカルには、こうした活性酸素を除去する働きがあります。

とえば、抗酸化酵素として知られるSODスーパーオキシドディスムターゼ は、亜鉛や鋼などのミネラルから成り立っています。また、このSODを助けてくれるのが、ビタミンCやビタミンEです。こうした酸化を防ぐ働きは「抗酸化」と呼ばれていて、どれも植物(野菜、果物、穀類など) に多く含まれる成分が役立ちます。

まとめると、「植物を食べる」と、次の3役を見事にこなすことができます。

  1. エネルギー源(糖の補給となる。
  2. 糖をミトコンドリアで効率よくエネルギーに変える助けとなる。
  3. ミトコンドリアでのエネルギー製造の際に生じた廃棄物「活性酸素」を除去する。

生命力の高さは コメ、イモ、野菜 の順

「動物は、植物を食べることで生きている」。食べ物がエネルギーに変わる代謝のプロセスを見ていくと、この意味がより明確になってきたことでしょう。植物を自然に近い状態で食べることで、植物の持つ「生命」をそっくりそのまま活かすことができるわけです。
この媒介となっているのが、「腸内細菌」であり、もとは「外部の細菌」だったとされる「ミトコンドリア」であるわけです。私たちが生きているということば、「動物→ 植物→ 微生物」というこの世界の生き物どうしのつながり= 生態系のなかで成り立っていることがわかるでしょう。

ここに「生命力を高める食事」の基本があることも見えてきますし、伝統的な日本の食事が「ごはん( コメ)、味噌汁(野菜+ 発酵食)」の組み合わせだったこともうなずけます。かなり賢い食べ方をしていたと感じられるでしょう。

ちなみに、「生命力が高い」ということは、新たな命を生み出す力が強いということでもあります。植物において、その最たるものは「種子」でしょう。古今東西、ヒトは本能的にそれを感じ取って、コメや小麦、トウモロコシ、イモ類を主食としてきました。イモは、種イモという言葉があるように種子でもあります。

さらに、同じ穀類でも、小麦粉を使ったパンや麺類よりも、粒のまま食べる白米のごはんのほうが、「自然に近い」と言えるので、おすすめです。実際、「粉」のパンより「粒」のごはんのほうが消化に負担がかからず、血糖値の上昇も穏やかなことがわかっています。もちろん、白米よりも五分づき米や、玄米のほうが自然に近いという点で軍配は上がります。

ここでいう「自然に近い」とは、「その植物をエネルギーに寧える微量栄養素が総合的に含まれている」という意味だと考えてください。自然から遠ざかるということは、「糖をエネルギーに変える働き手(ビタミンなどの微量栄養素) が足りない」ということですから、ほかの食べ物で補わなくてはなりません。
メニューの品数も、食べる量も必然的に増えてしまうでしょう。そうなれば、腸から血液、血液から細胞、そしてミトコンドリアヘの栄養素の運搬の負担も増えるため、病気や体調不良に陥りやすくなるでしょう。

ビタミン、ミネラルが足りない

ミトコンドリアの工場は膨大なエネルギーを生み出せますが、その工程は非常に複雑です。うまく稼働させていくためには注意点もありますし、工場のメンテナンスもしていかなくてはなりません。つまり、ただ何でもいいから食べて、呼吸していればミトコンドリア工場をフル稼働させられるわけではないということ。

では、何がポイントなのか?ミトコンドリアの主なエネルギー源、炭水化物や脂質をエネルギーに変えるには、植物に含まれる「ビタミン」「ミネラル」「ファイトケミカル」などの「微量栄養素」が欠かせないのです。
日本人の主食、コメの場合は、コメの主成分は糖質(炭水化物) で、この糖質は、腸でブドウ糖に分解されて取り込まれます。その取り込んだブドウ糖をミトコンドリアでエネルギーに変えるには、工場のスタツフとしてビタミンB1が必要です。
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ところが、コメは精製して白米にするとビタミンBlが取り除かれてしまいますから、ミトコンドリア工場は稼働しません。だから白米だけをガツガツ食べていたら、「解糖系」しか利用できないのです。スイーツも同様です。
砂糖も小麦粉も精製されていて、お菓子やケーキにはビタミンB1はほとんど含まれていません。甘いものを食べるとすぐに元気になれるのは、糖を分解するだけでエネルギーが作れる「解糖系」が利用されるからです。ただ、少量のエネルギーしか生み出せないため、すぐにお腹が減ってしまうのです。

要するに、小さな工場「解糖系」だけでエネルギーを生み出そうとするかぎり、餓鬼のようにガツガツと食べ続けなくてはならないのです。でもこれでは体に負担がかかりますし、結果的に心に余裕も生まれません。

よく知られているのは、「血糖値」との関係でしょう。精製した糖は小腸から一気に吸収されるため、血糖値が一気に上がり、これが日常的に繰り返されると血管に負担がかかってボロボロになっていきます。血中の糖を細胞に届けるには、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンが必要であり、高血糖状態が慢性的に続けば、インスリンの分泌も過剰になり、やがて、すい臓にも負担がかかってきます。

こう見ていくと、糖尿病と呼ばれる病気や、その延長上にあるメタポリックシンドロームは、「解楯系の使いすぎ」に問題があると見えてきます。逆に言えば、ミトコンドリアさえしっかり働いていれば、血液中の糖も十分に活用することができるということです。そうなれば結果的に代謝が上がるため、肥満やメタボの問題が改善されやすくなるわけです。代謝が盛んな若いころは、すばやくエネルギーが生み出せる「解塘系」にある程度はたよっても問題ありませんが、年を取って代謝が落ちてきたら、エネルギー効率のいいミトコンドリアの工場を稼働させたはうが、体に負担はかかりません。それが健康長寿のカギと言えるのです。

疲れ知らずのタフな体

ミトコンドリアの工場の規模が大きいのは、酸素処理の工程が複雑であることに加え、利用している原料の違いなども大きく関係しています。糖のほか、タンパク質や脂質など、細胞に取り込んだ栄養素をすべてエネルギーに変えられる高度な処理機能を持つからです。

まず、ミトコンドリアに取り込まれた栄養素は「TCA回路」という渦のなかをグルグルと回り、様々な種類の有機酸に変化する過程で、水素を含んだ「NADH」という物質が取り出されます。このNADHが次の「電子伝達系」に運ばれると、電子が取り出され、5つほどある関所(複合体Ⅰ~Ⅴ)に次々と伝達されていきます。

食べ物に含まれていた水素は、この電子が伝達される過程でようやく放出され、細胞の内部に蓄積されます。別経路で運ばれてきた「酸素」が水素と結びついて水に変化するのは、この電子伝達系の最後の局面です。こうして懸案だった酸素処理がすんだあと、たまった水素を利用することでエネルギーが生み出されます。

ミトコンドリアではこうした複雑なプロセスを経て、解糖系で生み出されるエネルギーの、じつに18倍ものエネルギーが生産されます。エネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸) という電池に蓄えられ、必要に応じて消費されていきますが、解糖系は3個の電池(3分子)しかエネルギーが生み出せないのに対し、ミトコンドリアが生み出す電池はじつに36個(36分子)しかもミトコンドリア工場は、1つの細胞のなかにかなりの数が存在しています。
平均300個、場所によっては数千にも及びます。要するに、ミトコンドリア七合体することで細胞そのもの、生命そのものが飛躍的に進化したわけです。私たちの体を構成する細胞内では、解糖系という「小さなエネルギーを生み出す工場」と、ミトコンドリアという「大きなエネルギーを生み出す工場」の、規模の異なる2つの工場が動き続けていますが、莫大な活力が生み出せるのは、ミトコンドリアのほうです。

そう、このミトコンドリア工場をしっかり賢く活用すれば、飛躍的にエネルギー代謝がアップするのです。そうなれば、たくさん食べなくても長時間動けるスタミナがつき、疲れない体に変わり、よりエネルギッシュに生きていけます。

すると、心にも余裕が生まれ、集中力だって、思考力だって増すでしょう。逆に、ミトコンドリアがうまく使えないと、せっかく摂取した栄養素がうまく活用できないため、疲れやすく、すぐにスタミナがなくなり、糖尿病をはじめとする生活習慣病やメタポリックシンドロームなどになるリスクが高まります。こうしたすばらしいミトコンドリア大工場を、十分に使いこなせているでしょうか?
じつはそれを叶える秘訣も、「植物の食べ方」にあるのです。