うつから自殺に至るケース 自殺前に見られる危険信号も

ぅつは自殺の最大の原因です。自殺はアメリカ人の死因の10位を占め、年間2万4千人の自殺者がいます。20分に一人が自殺を図り、10回に1回は死に至ります。

世界中で、自殺は増加の一途をたどっており、年間50万件が報告されています。自殺は人間だけにみられるものです。動物は他の動物を殺しますが、自分を殺すことはしません。人間だけが自殺をするのです。しかし「自殺をする」という人の言葉のすべてが本気だとはかぎりません。

症例1

ある女性が、うつを訴え、自殺したいと言ったために入院措置がとられまそちした。ところがその翌日、彼女はもううつは感じないと言ったのです。彼女の言動は、心理的評価の際に特徴的でした。

通常のうつの症状とは少し異なり、彼女は演技的で、少し誘惑的な身だしなみをし、これといった罪悪感もないようです。感情的で、興奮しやすく、ナイーブで、感受性も強い、といった彼女の行動パターンは、ヒステリー性人格障害の典型的な特徴です。

女性はうつではなく、ヒステリー性人格障害でした。このようなケースのご多分にもれず、彼女はうつを訴えたのです。そして、彼女の自殺したいという言葉はただの脅しだけでした。こうしたヒステリー性障害の人は、自殺をすると言っては人を操作しようとします。さらに話を聞いてみると、彼女は夫を操作しようとしていたようです。

自殺をほのめかす人の大半が操作的な性質のものであっても、まわりの人は真剣に受けとめなくてはなりません。自殺をすると脅かしている人は決して自殺しないというのではなく、事実、その1割は最終的に自殺を図るのです。

自殺をする人の大半が、だれかにそのことをほのめかしています。自殺は、離婚した人、連れ合いに先立たれた人、そして社会的、経済的に高いクラスの人、また独身の大人の男性に多く見られます。女性は男性と比べて5倍ほど自殺を図る数が多いのですが、しかし実際に死亡してしまうのは男性のほうが2倍も多いのです。

この理由は、男性のほうがより確実な自殺の方法を選ぶのと、人を操作するために自殺を用いることが女性ほど多くないからです。

何かの宗教を信仰している人でも自殺をします。大学生では、自殺は事故死に次いで、第2の死因となつています。3分に1回、だれかが自殺を図り、20分に1回、だれかが亡くなり3ます。自殺をする人には共通する特徴、経験が見られます。次にあげる10の症状が危険信号です。

自殺前に見られる危険信号(大事なサイン)

  1. 強烈な絶望感を感じている人。
  2. うつに見られるような、強烈な感情の痛みを持つ人。
  3. 45歳を過ぎた単身の白人男性。
  4. 自殺を企でたことがある人、あるいは人に自殺をほのめかしたことがある人(自殺をする人の10人のうち8人ははっきりした警告を出している)。
  5. 深刻な健康問題を抱えている人。
  6. 何らかの重要な喪失(配偶者との死別、失業などを経験していること。
  7. 具体的に自殺の計画を立てている人。プロセスは、自殺の考えがよぎり、自殺を真剣に考えるようになり、実際に実行する。
  8. 慢性的な自己破壊行為(アルコールや薬物の乱用など) をする人。
  9. 強烈な達成のニーズがある人。
  10. 過去半年の間にショックな出来事に遭遇した人。

自殺は非常に破壊的な行為です。その理由は、まず、

  1. 自殺を図る人の多くが、ものごとを現実的に見ることができずにいること。もし状況の真実が見えれば、あるいは問題は一時的なものであり、解決可能なものであることが理解できれば、自殺を選ぶことはないでしょう。セラピーを2ヶ月続けると、自殺思考が強かった患者は「自殺を考えていたなんて」と驚きます。
  2. 自殺のあとに残された子どもたち、親戚たち、友人たちへの影響が極めて大きいこと。子どもは親の自殺を自分のせいにします。また子どももまた親の例にならって、人生をあきらめ、自分が大人になって困難な状況に陥ったときに自殺を図ろうとしたりします。
  3. 自殺は他殺が罪であるように罪であるということなんじ「汝、殺すなかれ」という言葉は自他ともの命にあてはまります。自殺はけっして神の意志ではないのです!

うつになるとあらわれる症状

うつは存在のすべて身体、感情、スピリチェアリティに影響をおよぼす病気です。うつの感情的な痛みは、骨折による身体的な痛みよりもはるかに深刻です。

骨折などとは違って、うつの痛みは徐々にゆっくりとやってきて、ずっと長くとどまることが多いのです。現在多くの男女が、身体的な病気よりもうつの症状を多く患っています。そのうつの症状は、臨床的に見て大きく5つに分かれます。それは、悲しい感情、つらい思考、身体的諸症状、不安、そして妄想的思考です。

うつ病になりやすい性格というのもあります。

1 .悲しい感情につきまとわれる

うつの第一のは、悲しい感情です。うつを患っている人はふさぎこんだ顔つきで、落ちこんで見えます。また、泣きたい気分になりがちで、実際よく泣きます。

視線は下を向いて悲しそうです。口元は下がり、額はしわを寄せています。疲れて、がっかりしたように見え、顔つきは緊迫した感じがあります。

さらに、うつが進行すると、しだいに身だしなみに興味を示さなくなります。男性はひげを剃らなくそなり、女性は化粧をしなくなります。深刻なうつの人はよく他人からは、だらしなく見えます。うつを笑顔でかくそうとしてもわかってしまいます。事実、うつの人の多くが「ニコニコうつ」として知られる状況(内面の悲しい感情をかくすために不適当に笑顔を見せる) を持っています。

2.つらい思考に襲われる

うつ第二の症状は、痛みをともなうつらい思考です。骨折すると身体的な痛みを感じるのと同じく、うつの人は感情的な痛みを経験します。ひどい身体的な痛みと感情的な痛みの両方を経験した人の多くが、心の痛みのほうが体の痛みよりもはるかに苦しいと訴えています。

心の痛みより、骨折の痛みのほうがましだというのです!うつの人は何度もくりかえして内省的に過去のあやまちに関して自分を責めます。自分に非がない場合でも、うしろめたさを感じ、自分のせいだと感じてしまうのです。

過去のうまくいかなかったことも、それが事実であれ、想像のことであれ、あらゆる事柄を過剰に心配します。自己否定感にとらわれているのです。問題がささいなことでしかなくても、あたかも大間題であるかのように評価し、それが全部自分の責任だとして自分を責めます(ある人はまった逆に、自己憐憫にふけるあまり、すべての問題を人のせいにします)。

また、自分が大切だとは考えず、知性、スピリチェアリティなどの点で、自分は劣っていると感じています。自分は無力で、無価値、希望がないと考えています(事実、うつの人の75% は自分はけっして治らないと感じています)。

多くの場合、まわりの人たちからはサポートがなく、空虚で孤独だと感じています。しかし、人からの愛情、確認の言葉がほしいのに、深く根づいた敵意がそれを得ることを挫折させます。

最近、あるいはずっと過去のことで、自分の思うようにいかなかったことに対する後悔でいっぱいです。不幸で悲観的、怒りつぼく、疑い深くなっています。

あらゆる体験が心の痛みと結びついています。人に受け入れられないことを予期し、(多くの場合、事実とはかなりかけ離れて) 拒否され、嫌われていると感じています。

自分自身と自分の思考にとらわれすぎているために、注意力、集中力、記憶力に問題が生じます。不安にとらわれ、困惑し、未来は暗く、エネルギーもあまりなく、何をやっても無駄だと思ってしまいます。これまで述べたように、こうしたつらい痛みをともなう思考は罪悪感が中心になっています。

これは本当の罪悪感の場合もありますが、うつ患者の場合は擬似罪悪感が大きな問考えています。罪悪感を感じなくてもいいのに、ささいなミスや間違いにも罪悪感を感じます。

普通は、間違いを犯したあと、少しの間、罪悪感を感じるだけなのです。私たちは罪悪感がどんなにつらいか知っています。ですから、このような罪悪感にずっとさいなまれ続けたらどうなるかを想像してみれば、うつ本人がどう感じているかが少しはわかるでしょう。

本人は逃れられない罪悪感を抱えているのです。うつの人のつらさは、個人のコントロールのおよばない行動や出来事の責任を取るところからきています。これは、人に一目置かれたいというニーズに根を発するものかもしれません。

うつの人は圧倒的な力量不足を感じており、自分は価値のない、箸にも棒にもかからないダメな人間だと思いこんでいます。

でもそれは本人も認めたくないのです。多くのことに責任を持ち、多くのことが自分にかかっているとなれば、自分をゼロと感じなくてすみます。そうやって圧倒的な責任感が、本人が無価値であると感じないですむよう、無意識レベルで本人を守っているのです。

責任がパワー感をもたらしてくれます。内部の本当の姿である力量不足感、無力感から、反応として全能感をもたらしてくれるのです。

うつの人はモチベーションに問題があることが特徴です。つまり動機が欠如しているのです。以前かかわっていたような行動にも興味を持てなくなります。

人を避けるようになり、1人にしてほしいと願うようになります。ユーモアのセンスも失われ、なかなか決心がつかなく2 2なります。そしてしだいに自殺のことばかりが頭を占めるようになるのです。
3.うつにともなう身体的症状
うつの三番目の特徴は、体の症状で、医師らはこれを「うつの生理学的随伴症状」ととらえています。

うつの状態にある間、神経系統で脳内アミン、とくにセロトニンにかかわる生化学的変化がおきます。人間の脳は、車がガソリンで走るのと同じく、セロトニンで機能しますが、こうした脳内物質の変化が、さまざまな身体的結果をもたらすのです。
セロトニン不足による不眠はセロトアルファで補う

まず、体の動きが減り、睡眠が影響を受けます。入眠障害や早朝覚醒があり、するとまた寝つけなくなることがよく見られます。最初では、睡眠が短くなるより、眠りすぎることが多いでしょう。食欲も変化し、過食かまったく食べなくなり、それによる体重の減少、または増加が見られます。下痢、普通は便秘がより多く見られます。

女性では、生理が何ヶ月も止まったり、不順になったりします。セックスへの興味が薄れるケースもよく見られます。本人は緊張からくる頭痛、頭部の張りつめた感じを訴えます。

体の動きが緩慢になるにつれて、姿勢が前かがみになり、茫然自失の状態になります。胃腸障害も見られ、代謝率も下がります。口が渇いたり、心拍数が増えて、動悸が激しくなったりします。

こうした身体的変化に本人が驚いて、心気症(体の病気に対する過剰な懸念) になり、多くガンや低血糖、栄養障害だといこんだりします。実際、人は面子を守るためには、何らかかっとうの病気を持っているほうがましなのです。

心理的葛藤があると認めることは弱さであり、それは避けたいのです。低血糖だと信じて病院を受診する百数人の患者のうち、実際に低血糖の疑いがあると確認されるのはほんの一人にすぎません。

4.不安と興奮が高まる

四つ目のおもな症状は、不安感と興奮です。不安とうつは普通いっしょにおこります。そして、不安のため、普段よりイライラしやすくなります。またうつがひどくなると、興奮も高まります。うつの人は緊張して、じつと座っていることができません。多くがパニック状態「極端な不安感の発作」になり、心拍数が上がり、心臓発作がおきているのかと思われる人もいます。

5.妄想的思考が浮かぶ

深刻なうつにおこりうる五つ目の症状は、妄想的思考です。妄想を抱いている人は、明らかに現実との接点を欠いています。妄想には、自分は迫害されているとか、自分は神から特別の才能や洞察力を与えられたと考えるなど、誇大妄想的思いこみがあります。

実際にはない声こえる幻聴や、人には見えないものを見る幻視もあります。こうした症状のすぐあとに治療を受ければ、普通は思考も正常に戻り、正常に暮らせます。こうした場合、1~2ヶ月の入院が必要でしょう。

入院中は、毎日の精神療法、向精神薬、抗うつ剤、勇気づけがなされます。しかしなかには、残念ながら精神病になる人もいます。通常のうつとは、その程度や性質において、とても異なります。

まとめとして、うつは複雑でつらい障害であり、心、体、スピリチェアリティすべてに影響します。現実の痛みを回避するために、完全に現実との接点を失うところまで進んだりと、さまざまな程度の症状が見られます。

大半のうつは精神異常の段階まではいきませんが、悲しみ、つらい思考、身体的症状、不安(または興奮)をともないます。もしこれらの症状のために本人が生理的、社会的に何か悪影響を受けるようなら、うつと言えます。

きちんとした専門の精神療法に積極的に取り組めば、治ります。もし、悲しみ、つらい感情、精神運動抑制(体の動きが緩慢になり、しかもそわそわする) とともに相当の不安がともなう場合は、興奮性のうつですが、これもまた完全に治ります。しかし、これ.に加えて妄想や幻視、幻聴があれば、精神病的うつと言えます。

精神病性のうつも、早期に発見されれば、かなり治療は難しいですが、普通は治ります。なかには悪化して、一生精神障害を患う場合もあります。ただし、近年の医学の進歩により、統合失調症(精神分裂病)患者も、処方薬を服用することで、健康な生き方に戻ることができるようになってきました。

あなたはうつにかかっているか

次の質問の答えの大半が「はい」の場合は、うつの確率が非常に高いので、症状が悪化しないうちに専門家のアドバイスを受けてください。

  • 一年前と比べて、よく泣きたくなる気分になる。
  • 気分が滅入って悲しい。
  • 希望がなく、ほとんどいつも無力感にとらわれている。
  • やる気、動機(モチベーション)がほとんどなくなってしまった。
  • かつては楽しめたものへの興味が失せてしまった。
  • 生きることは価値がないという考えがよく浮かぶ。
  • 睡眠パターンが最近変わって、極端に多く、あるいは少なくなった。
  • 食欲がなくなっている。
  • 頻繁にイライラする。
  • よくそわそわした感じになる。
  • エネルギーがなかなか湧いてこない。
  • 朝は1日のうちでも一番気分が滅入る。
  • よく過去のことを思い巡らしている。
  • 鏡に映った自分は悲しそうだ。
  • 自己否定感を持ってしまう。
  • 過去のことを気にしすぎる。
  • 一年前より多くの身体症状(頭痛、胃の痛み、便秘、動悸など)がある。
  • かつてのように仕事がうまくできていないと、まわりの人は気づいていると思う。

もう少し客観的にうつの自己診断を行いたい方はこちら。

誰でもどんな人でもうつになる可能性がある

ある患者さんの例です。待合室に、一度も見かけたことのない若い女性がいました。診察室に呼び入れ、「どうしましたか」と聞くと、彼女は突如として涙をこぼし、いかに落ちこんでいるかを話し始めました。

うつと悲しみと絶望でどうにもならないと彼女は言うのです。つらい彼女にとって、受診は最後の手段であるかのようでした。この若い女性は、アメリカの一番の健康上の問題「うつ」を患っていました。

医師が診るうつの患者の数は、その他の心の問題を抱える人たちを全部合わせた数よりも多いのです。大半のアメリカ人は一生のある時期、深刻なうつを患います。

そして現在、アメリカ人の20人に1人がうつという診断を受けているのです。もちろんもっと多くの人がうつ状態にありますが、治療や援助を受けていません。ある推定によれば、アメリカの18歳から74四歳の人口のうち、2千万人がうつ状態だと言われています。うつは自殺のおもな原因であり、事実、うつを患った人の一五% が自殺を図ると言われています。

うつは今日アメリカの死因の10番目にあげられ、大学生の間では死因の2番目にあがっています。

うつは男性よりも女性に2倍多く見られ、また経済的にクラスが高い人々には3倍多く見られます。

たしかにお金で幸福は買えないことを、この数字ははっきりと証明しています! うつは普通40代、50代で発症しますが、幼児期から高齢者までストレスが多い時期にはいつでもおこり得ます

うつはあいまいな言葉です。一般の人たちはちょつとした気分の浮き沈みから、精神病までを含めてこの言葉を使っています。

私たちはみなこの中のどこかに入るわけで、うつの程度と幸福感は1日のうちでも時間により、また日により、ある程度行き来します。

いわゆる「臨床的なうつ」に陥っている人、つまりうつ症状ゆえに生理機能上の症候が現れている人たちを治療します。

うつは旧約聖書の時代から語られてきました。聖書にはヨブ、モーゼ、エリヤ、ダビデ、ジェレミアなどのうつ的な症状が記録されています。

最初にこの症状が記録されて以来、その状態は現在までずっと変わっていません。さて、ではどんな人がうつを患うのでしょう?実は、人生のある時期、ほとんどだれもがうつを経験します。

しかし、深刻なうつを患っている人でも、何とかつらさから抜け出る道、希望はあるはずです。

うつは普通、正しい治療と援助によって治ります。深刻なうつの経験者にも、今後はそれを回避できるという希望が必要です。

生理的理由によっておこるうつでさえも、治るまではいかなくても、大半は正しい処方薬とカウンセリングでコントロールできます。

現在つらい痛みを経験している人が楽になれるよう、そしてまただれもが人生でかならず直面する試練やストレスにも、できるだけその痛みが軽くあってほしいとい願っています。

幸福は、私たちが正しい道を選びさえすれば、手に入れることができるのです。