幼少期にうつの根が植えつけられる

うつの根は実に深いのです! 40歳代ではじめてうつになる人は、おそらく4歳のときにうつの何らかの根が植えつけられたと考えられます。

うつに関する本や記事の著者のなかには(とくに専門家でない人は)、うつの進行は1、2、3とお決まりのコースをたどるかのように書いている人がいます。

たとえば単純な「うつ的人格」の特徴をあげることですら一筋縄ではいかないのであり、誤った試みなのです。

精神科の研究では、最低10のおもな人格タイプ、それに数百の多様な人格タイプ、行動パターンの組み合わせをあげています。その中に、とくにうつにおちいりやすいタイプというのはありますが、どのタイプもうつにおちいる可能性はあるのです。

人間の脳はまるでコンピューターのようです。数百の人格形成に関する研究をまとめて、大人の行動パターンの約85% は6歳までに探く刻みこまれることを示しています。

この大切な人生最初の6年で、子どもは親の行動パターン、とくに同性の親の行動パターンをコピーするのです。子どもは自動的に親がしたことを学びます。

親が怒りを抑圧すると、その子どもも怒りを抑圧する傾向を身につけます。親が同情を得るのに病気、うつを使ったならば、たぶんその子どももそうするでしょう。この極めて大切な時期に、親は親なりの理想に従い、普通は子どものためになるという良い動機を持っているのですが、しかしまずいやり方で子どもを型にはめていきます。親は子どものいろいろな行動パターンを意識的、または無意識にほめたり罰を与えたりします。

たとえば2~3歳児は普通、怒りの感情が何であるかを知っています。腹が立てば、自分が怒っていることを知っており、適切に、あるいは不適切にそれを表現するのです。

たとえば私たちの子どもが私たちに対して怒りを感じている場合、それを子どもが物を蹴飛ばすことで表現したなら、私たちは子どものお尻を軽くたたきます。それは「しつけ」の範囲に入るでしょう。

しかしながら多くの親が、子どもが適切な方法で怒りの感情を表現しようとしていたとしても、やめさせようとします。

さらに、正常な怒りの感情を適切に表現する子どもに罰を与えたりする親もいるのです。子どものとき、父親に対して「お父さん、いま私はお父さんのこと、すごく怒ってるんだけど、話を聞いてくれる? 」と言ったことがはたしてあったでしょうか?

おそらく怒りを伝えようとすると、拒否や罰を受けたために、怒りを恐れるようになってしまっているでしょう。そうなると、まあ、どうでもいいや、と怒りをごまかすように学習してしまいます。そして怒りを抑圧すると、かわりに犬を蹴ったり、兄弟ゲンカをするようになります。

その子が35年後、昇進の機会を逃したとします。もちろん正常な怒りを経験しますが、そういう感情は抑圧するよう3歳のときに学んでいるので、怒りに気づきません。

無意識に上司のことを幾晩も恨みます。次第にセロトニンとノルエピネフリンが脳内アミンから枯渇していき、不眠、倦怠感、食欲低下、その他多くのうつの症状が出てきます。

それをかかりつけの医者に訴えると、医者はあなたがうつを患っており、怒りを抑圧していると告げます。まったくその通りなのに、あなたは「私が? 怒ってるって? 3歳以来怒ったことなんてないのに! 」と反発を感じます。

そして精神科医に紹介される段になると本当に怒って、しかしこの怒りを今度は「フラストレーション」と名づけるのです。あるいは、医者に低血糖だ、甲状腺機能障害だと言ってもらぅのに結構なお金を払っているのに、実はうつだなんて、とんでもない奴だと思うのです。

ひと月たち、さらに症状がひどくなります。もう3人の専門家のところに行ったのにこれといって悪いところが見つからない、医者はどれもこれもヤプ医者だと決めつけます。極めつけに、どこかのエクソシスト(祈祷師) を見つけて、自分が聞きたいことを言ってもらうのです。

すると数日はほっとしますが、症状は続きます。自殺を考えるほどにまでなってしまっても、それがなぜかはわかりません。そして、自分の感情に直面するのを避ける大半の人の例にもれず、大半の人が伴侶のせいにしたり、「離婚」という今日のアメリカであふれている方法で「解決」したりします。

最後の手段として、プライドを飲みこんで精神科へ行きます。そして抗うつ剤を出され、毎週の精神療法に通います。そこで自分の怒りにふれ、それを口に出し、解消していきます。

3~6か月後には、抗うつ剤をやめ、薬なしでも気分がよくなります。こうして自分の怒りに気づき、どう処理すればよいかを学んでいくのです。

これは3歳のときにすでに知っていたことなのに、抑圧するよう親に教えられたからなのです。あなたはもしかすると、すべての怒りは罪であると教える教会に通って育ったかもしれません。

実に多くの人がそう教わり、信者の多くがそう信じています。神が「怒ることがあっても、罪を犯してはならない」 と言っているにもかかわらずです。聖書はまた、怒りのまま日が暮れるようではいけない、と教えてもいます。就寝時間を越えて恨みを持ち越してはいけないのです。もしすべてのクリスチャンが聖書の教えを守り、怒りつつも、就寝までに適切な方法で恨みを取り除いていたなら、遺伝的素因がないかぎり、あるいは自分でも気づいていない大量の抑圧された怒りがないかぎりは、うつにおちいる人は1人もいなくなるはずです。

もちろん、怒りはあやまちであることもあるし、おうおうにして未熟さの結果でもあります。おそらく怒るべきか否かよりももっと大切なことは(もしすでに怒っている場合)、その怒りをどう処理するかです。

行動パターンの大半を学習する人生最初の6年間で、私たちの多くが感情を誤って処理するよう学んでしまいます。しかし神は、私たちのコンピューターである脳の誤ったプログラミングを変える意志と、それを行なうに必要な力を私たちに与えています。

うつの根の大半が、自分自身に向けられた怒り、あるいは罪悪感、または他人に向けられた行き場のない怒りや恨みです。こうした恨みは普通、無意識( つまり気づいていない) のものです。

なぜなら、それを自分で認めることは恥であり、怖いと思っているからです。そして恨みをときに数か月、数年も持ち越すことによる責任から逃れるために、私たちはうつの症状の原因を求めます。数年ごとに社会ではうつに関する新しい説明が話題を呼び、それは大半の人々に受け入れられていきます。

過去によく使われた説明は、ホルモン障害、低血糖、アレルギー、内耳障害、そしてごく最近では伴侶選びのミス(その場合、離婚がうつの治療となる) などがあります。これらの正否は別として、うつの根が深いことは疑いもありません。

遺伝子に原因が潜んでいる?

病気に関して(うつも)何事も「ダメな遺伝子」のせいにする人たちにはうんざりしています。

今日、実際に多くの人々は、アルコール依存症や同性愛などをわら「遺伝子のせい」にしています。いわゆる科学者たちは、データをねじ曲げてでも藁をつかもうとしているかのような感があります。

しかし、遺伝子は、私たちの知的、感情的可能性に大きな影響を与えていますが、大人の知恵と幸福は遺伝子によって運命づけられるものではありません。

うつの多くは、自分自身の取り返しのつかない行為、無責任な怒りと罪悪感の出し方の結末です。それは、自分で意図的にそうする人もいる反面、たいていの場合、知らずにそうしている人が多いのです。

責任を持って自分の感情や問題に向き合い、幸福を選ぶ行動に移してほしいと願うからです。しかし、多くの人は自分の責任、とくにつらい感情や問題に直面するのをとても嫌います。

自分のつらさを自分自身の問題として取り組むよりは、ダメな親、相棒、社会の不遇、あるいは低血糖いわゆる「悪い遺伝子」のせいにしたほうがはるかに楽なのです。

たとえば、人より容易に酔っ払う傾向の遺伝子を持っているとしても、その人に酒を飲ませて酔っ払わせるのはまさか遺伝子ではありません。

また、アンドロゲン(男性ホルモンの一種) が人より少ないことがあったとしても、だからといって遺伝子がその人を同性愛に向けるのではないのです。遺伝子レベルで同性愛になるべくプログラムされている人はだれ一人いません。

遺伝子は、脳内のセロトニンの枯渇によって、ストレス下でうつになる傾向を示唆しますが(ある人は脳内ドーパミン活性が変更していることによって同様のストレス下でも精神病が発症しやすくなる)、遺伝子が私たち自身や人に対して恨みを抱くように強制するわけではありません。

神は、計画の一部として、私たちにある強さ、弱さを備えられたのです。旧約聖書ので、ダビデは「あなたがわが内臓を造り、わが母の胎内で私を組み立てられました。私はあなたをほめたたえます。あなたは恐るべき、くすしき方だからです」と祈っています。

神は「彼らをわが栄光のために創造し、これを造り、これを仕立てた」と言っています。なぜ神は私たちを完全に造らなかったのか、それはわかりませんが、私たちが正しい決断ができるような知恵、愛、正義の神を私たちは信じています。

神がもっと人情を持たないからといって、神に怒りを向けるのは横柄で、尊大なことなのです。私たちは職業柄、自分が神より賢く、親切であると信じている多くの人たちに出会います。神があやまちを犯すと思っているのです。

人間は現在の痛みしか見ていませんが、神は永遠の喜びを見ているのです。人間はうつのつらさを強調しますが、神は責任を持って人間がうつに向き合い、成熟し、成長するのをお喜びになるのです。

ここで、もっと学術的にうつの遺伝子に関するデータを知りたい方のために、以下をまとめてみました。

  1. これまでの科学的研究によると、女性は明らかに男性よりうつになりやすい。文化的要因もまた考慮しなくてはならないが、この性差素因は遺伝子レベルにあるらしい。
  2. 研究によれぼ、うつの人の血縁関係者はうつになる確率が高い。親、兄弟、子どものリスクが一般の人以上であることは、すべての感情障害について言える。
  3. うつの遺伝子素因理論を多くの科学者が受け入れるような影響を与えた、双子の研究について。38組の双子を対象に行なわれた研究では、一致率(片方がうつならもう一方もうつになる率) は、一卵性双生児では57% 、しかし二卵性双生児では29% のみであることがわかった。また別の研究によれば、別々に育てられた一卵性双生児で67% 、いっしょに育てられた場合、76% の一致率を示している。
  4. 遺伝のモード(優性遺伝か劣性遺伝か、常染色体か性染色体か、単一遺伝子か複数遺伝子かなど) は現在深く研究されている。ある研究は、Ⅹ染色体の遺伝子のひとつが、うつ(双極型) の素因の可能性があることを示唆している。
  5. 双極感情障害は比較的まれな障害で、大半のうつとは対照的に、ほとんどが遺伝性である。操うつの人は、普通の気分から重いうつの範囲まで気分の上下が見られる。こうした気分の上下の要因は、ときに環境的ストレスとは無関係のように見える。よって操うつにおいては遺伝の要素が大きく考慮される。操状態はリチウムでうまく治療することが可能。うつ状態は抗うつ剤の処方によって治療する。タグレトールもまた遺伝的気分の上下を抑えるのによく効く。これらの新しい処方薬は、うつの気分の上下とともに操状態の上下にも効き、脳の活動をより正常化させる。なお、操うつ患者の親の一致率は36~45% 、兄弟では20~25% 。だが躁うつ患者の一卵性双生児の一致率は、研究によって66~96%と幅が見られる。

深い悲しみに遭遇すると「うつ」になるのか?

人はだれでも、愛する人の死、大好きなペットの死、事業の失敗、婚約者からの婚約破棄、受験の不合格、車の事故で腕や脚を失う、不治の病にかかっていることを知る等々、大きな喪失や悲嘆を味わいます。いや重大な喪失を経験すると、それが癒されるまでに次に説明するようなグリーフ(深い悲しみ)の5段階を全部通ります。グリーフ反応はうつとは違いますが、グリーフの第2、または第3投階にあまり長くつまずいていると、うつになる場合もあります。

第一段階「現実を否認」
自分の身におこつていることを信じないことで、これは通常長くは続きません。

症例

5歳の女の子、ジェーンは、お父さんが大好きでした。ある夜、ジェーンと添い曝している間にお父さんは心臓発作をおこして、救急車で病院に運ばれました。ジェーンには「かならず戻るから」と言って出かけたお父さんでしたが、病院で死亡しました。そのことを聞かされたジェーンは数年間にもわたってその事実を否認し、父親の死後もクローゼットやベッドの下を探そうとしました。10代になってもジェーンは、ときに父親が部屋に入ってきて、やさしい言葉をかける妄想を抱いていました。彼女は否認の段階にひたりきっていたのです。そこから抜け出すためには、二年間(十四歳から十六歳)毎週の精神療法が必要でした。

第二段階「怒りがでてくる」
大きな喪失を経験するときに私たちにおこる反応の第二段階は、「自分以外のだれかに対する怒り」です。
たとえば、死別した人のせいではまったくないにしても、死んだその人に怒りを感じたりします。これは、親の死や離婚を経験した子どもにはかならずおこる、正常な人間の反応です。この段階では、こんなことを許した神に対する何らかの怒りを含みます。しかし、神への怒りは抑えてしまうため、普通気がつかないことが多いのです。
第三段階「怒りの対象が自分に向かってくる」

重大な喪失が受け入れられ、神、その他の人たちへの怒りが出たあとは、かなりの罪悪感を感じるようになります。この段階では、何でも自分のせいだと考える傾向があります。「あと知恵」はつねに「見通し」より良く、「ああすればこの喪失はおこらなかっただろうに」という思いを禁じ得ないのです。

怒り、恨みをすべて内側に向けます。神に自分のあやまちを告白して、完壁な見通しを持ち得なかった自分を許すのではなく、自分自身を恨みに思い、自己批判的な考えで、自分を糾弾し始めるのです。たいていの人はこの投階をすばやく通過( 1~2週間のうちに) して、第四段階に進みます。この怒りが内側に向かった状態に長くとどまると、グリーフはうつに姿を変え、セラピーでも数ヶ月かかるようになってしまいます。セラピーなしでは、うつのまま一生を送る人もいます。

症例

婦人は牧師の妻で、うつ、不安、自殺願望を訴えてセラピーにやってきました。血圧は上がるばかりで、危険な状態にまで達しています。彼女の父親は、彼女が精神科の援助を受けると決める一年前に亡くなっています。セラピーで、彼女は1年前の父の死のグリーフの第三段階でずっとつまずいていることがわかりました。父親に「さよなら」も「アイラブユー」も言わなかったことが罪悪感になっていたのです。

またあることで父親に腹を立てていたこともあり、死人に恨みを持っている自分をうしろめたく思っていたのです。私たちは人が死ぬと、その人の悪いことは忘れ、死人に怒りを持つという考えそのものがおぞましいとする傾向があります。彼女の内向した怒りは彼女をうつにしていたばかりか、心臓発作で死ぬ危険があるほどまでに血圧を上げていました。

彼女の精神科医は、ゲシュタルトセラピーよって開発された精神療法の方法。分析や解釈などをせず、「今ここで」の出会いを重視する。

よく用いられる技法に、2つの椅子を用いたチェア・テクニックがある。ゲシュタルトとはドイツ語で「全体性を持った形態」の意) のテクニックを使って彼女の亡くなった父親になり、彼女の中にとどまっているいろいろな感情や考えを全部吐き出すように援助しました。彼女は最初、自分自身の感情が恐いために拒否していましたが、精神科医はとうとう説得に成功しました。

はじめは大変でしたが、いったん始まると彼女の喪失感や愛情、怒り、罪悪感がたくさんの涙とともにどっと出てきました。20分後、彼女は1年間ためこんでいた全部の感情を出し切りました。1週間のうちに彼女のうつは晴れて、血圧も正常に戻り、現在もその状態を維持しています。

第四段階「真の悲しみが訪れる」
これはもっとも大切な段階で、かつ必要不可欠です。重大な喪失、逆転を体験する場合はつねに、男女ともにしっかり泣くことが大切です。私たちの文化は男性に、そしてある女性に、ストイックに感情を抑え、泣かないことで(葬式ですらも) いかに強いかを見せることを強いています。
父親の死に際して泣くのは、弱いからでしょうか? イエスキリストが、友人ラザルスの死を嘆いたのは、弱かったからでしょうか? もちろんそうではありません。重大な喪失に際して泣くのは、人間的、かつ神の目にかなっています。
深い悲しみを表出しないで蓄積してしまうと、うつになって、長年それを引きずることになります。思いきり泣いてしまえばよいのです! そうすれば、早く第五段階に移ることができます。
第五段階「癒されて意欲と喜びを取り戻す」
第五段階は、喪失という現実の否認、外側と内側に向けられた怒り、真のグリーフがなされたあとにもたらされる段階です。ここでまた、人生に立ち向かう意欲と喜びを再び取り戻します。
第一から第四までの段階が終われば、自動的におこる段階なのです。人間はだれでも、大きな喪失を経験したあと、五段階全部を通ります。友人との死別などの重大な喪失では、成熟した大人でも仝プロセスを超えるのに3~6週間かかります。こうした仝五段階のプロセスを知っているからといって、グリーフがおきないのではありません。
しかし、知っていればこの五段階をより早く、恐れも少なく過ごせるでしょう。だれでも人間はときに喪失による一時的な悲嘆の反応を経験するでしょう。もちろん人口の1% に見られる遺伝的な要素の強いうつの場合は除きますが。他の99% の人にとっては、結局のところ幸福は自分が選ぶものなのです!