うつの正体

うつが起こる仕組みの解明

では、うつの心理的、生理的メカニズムについてざっとまとめたいと思います。不健全な家族パターン、とくに人生最初の六年が、その後の人生でその人がうつにおちいるかどうかの重要な鍵となります。

そのおもな原因のひとつは、幼いときに、怒りをうまく建設的に表現するかわりに、怒りを抑圧することを教えられることです。それほど重要ではありませんが、遺伝という要因も考えられます。

強迫的人格(完全主義的)、演技性人格のダイナミクスについては、前にふれました。これらの要因のすべてがうつの土壌となり、そこヘストレスが加わるのです。

一時的にグリーフ反応はあってもうつにおちいることなく乗り切ることができるでしょう。しかし幼児期の環境(もしかして遺伝も) 要因を持っており、怒りを抑圧することを学んだ人は、うつをひきおこすまで肥大してしまうのです。そして前述した生理的症状などが出てきます。

学習によるパターン化

うつは学習によってパターン化します。親がうつだと子どもも同様に、うつのライフスタイルを発達させるようになります。

生き方として、ストレスの対処法として、うつを学習するのです。うつの家族は、次世代にもこのうつのライフスタイルをひき継がせます。子どもたちの人格も、親に似てきます。

脳には気分を司る大脳辺縁系と呼ばれる部位があり、上機嫌、意気消沈、安定した気分などをコントロールします。脳内アミンは神経細胞間のシナプスを行き来する神経伝達物質です。こかつこうした伝達物質( ノルエビネプリン、セロトニン) の枯渇がうつの一大要因であると考えられています。

ためこまれた怒りはこうしたアミンの枯渇をもたらし、その結果、神経系が正しく機能せず、不眠、疲労感、食欲の変化、動惇などがおこります。子ども時代を、否定的で、慢性的にうつ状態の親とすごした子どもも、同じような態度を学習します。

よって、彼らは普通の人以上の怒りを持ち、脳内アミンはほとんどいつも枯渇しているようになります。ぜひとも私たちの子どもを、うつのライフスタイルのなかで育てないようにしましょう。

他人を操作するためにうつになる人

ときには、うつは人に対処する手段となります。実際、うつは人を操作し、自分の思い通りにするためのパワフルな手段となりえるのです。伴侶を操作するためにうつを使う人もいます。子どもは感情を分かち合うよう奨励されるべきですが、悲しいふりをして人を操作するやり方に、あまり左右されないようにしましょう。

自分で自分を罰する人

うつは、自分で自分に歯向かう病です。ですからうつを感じ、みじめになると、それで当然だと思ってしまうのです。そして、自分で自分を罰してしまうのです。もし罰を受けるべき行為をしたとしても、それは神が与えるものであって、自分でもたらすものではないことを知る必要があります。神は何とか彼に教えをさとそうと思うかもしれませんが、それは神がすることであって、自分ですることではないのです。

つら い思考 が エスカ レート す る人

うつになると、どんどんつらい思考に向かっていきます。希望はますますなくなり、無価値感、罪悪感を強めていきます。自己批判が強くなり、自己評価も低くなります。

そしてうつに2なると、全般的につらい思考パターンが現れてきます。不適当な思考はより不適当な思考を生10むという循環を招くというわけです。この思考を変えることはできるのでしょうか?

カウンセリングを受けている人は、自分にこく言い聞かせるメッセージを変えることでずいぶん気分が楽になっています。自分をそんなに酷し便せず、批判的にならないことが大切だと感じています。

うつの人は、20人からほめられても、たった1人に批判されると、20人からほめられたことを忘れてしまいます。これを逆にして、人からの肯定的な評価を重要視するようにし、それほど大切でない、たまにしか出ない否定的な意見ばかりに気を集中させないことが大切です。

うつになって得た報酬に味をしめる人

子どもは子ども時代にどんな報酬を与えられ、しつけを受けたかによって反応の仕方を学びます。

たとえば、うつになると学校を休むことが許されて、余分に関心をかけてもらえることを学んだ子どもは、うつをライフスタイルとするようになります。うつに不適当な報酬が与えられたので、それが強化されたのです。

夢をみないとうつになる

うつの最大原因のひとつが、ありふれた疲労です。身体的、精神的に頑張りすぎると、うつがおこります。

よく学生が徹夜して勉強したり、幾晩も連続で5~6時間の睡眠ですませようとしたりします。催眠のニーズを無視するのは危険です。私たちの体は平均して8時間の睡眠を必要とするのです。

健康を保つには、夢をみる時間も必要です。大人はみな寝ている間、90分につき約20分は夢をみています。

しかし、途中で起きることがないかぎり、その夢を覚えてはいません。3晩夢をみなければ(睡眠は十分でも)、大半の人がうつになり、また妄想的になるでしょう。では、どの脳内物質が人に夢をみせるのでしょうか?

最近の研究では、ノルエビネフリンとセロトニンが夢の開始、維持を司ることがわかっています。夢では、現在の無意識の衝突がすべて象徴化されます。どの夢にも象徴的な意味があります。幸福を選ぶのなら、健全な睡眠パターンを選ばなくてはなりません。睡眠、夢は健康と命を保つのに必要なのです。

思春期のうつ

成人は、うつになると行動でわかります。しかし思春期の子がうつになっても典型的なうつの現れ方をしません。

そのかわり、嘘をついたり、不法薬物に手を出したり、性的にまずい行動をしたりします。ある10代の女子の例を見てみましょう。

彼女は最近まで極めて健康な子でした。娘がうつにかかっていると知らされた母親は、娘に性的行動や薬物の乱用に制限を設けるようにと言われました。娘はセラピーを受け、抗うつ剤を服用すると、数週間のうちに、以前のような健康な子に戻りました。

数多くの思春期の子が同じょうなことで治療を受けています。しかしこの治療は、甘やかされて、小さいころから好き放題してきた子にはうまくいきません。親が離婚したあと、子どもがうつにおちいることはよくあります。

子どももまたうつを行動化します。10代のうつ、自殺はアメリカで過去40年の間に300% の増加を見せています。これは家族崩壊のためです。親の離婚に関する子どもの怒りを話し合い、そして親を許すことができれば、子どもは良くなります。また、父親の死後、グレたり薬物に手を出したりする子は、父の死について、感情を話し合うことができ次第、改善されていきます。

産碍期のうつ

女性が出産後(とくに第1子の) にうつになることはよくあることです。この産後のうつは、とくに出産に関する複雑な感情を抑圧している母親にもっとも多く見られます。

複雑な気持ちを持つことは正常です。赤ん坊を産んで、一生親となることは大変な責任です。しかし、赤ちゃんを産むことの恐れが母親にとって受け入れがたい場合、そしてこの感情を抑圧すると、うつがおこります。こうした恐れを素直に認めて、夫や友人に話をするほうがはるかに簡単ですし重要です。母親がこうした感情を話し合うことができれば普通、うつは消えますが、抗うつ剤を必要とする場合もあります。ただし、抗うつ剤は、妊娠中、授乳中は普通は避けるべきです。

中年期のうつ

中年期にうつがおこることはよくあります。自分で設定した目標にけっして到達できないと感じている強迫的な人には、とくに顕著に見られます。これに気づいた彼らは自分自身に非常に腹を立て、うつになります。それとは逆に、目標を達してうつにおちいる人もいます。

目標に達しても不安定に感じているからです。彼らのつらさは外的要因でなく、自分とつき合って生きなくてはならないところから来ています。彼らはよくうつになって、つらさを罪のない伴侶やだれかのせいにします。

中年期には多くの喪失がおこり得ます。たとえば研究によると、中年女性の最大の恐れは、美貌が衰えるということです。その次の恐怖感は、伴侶に先立たれ、1人になってしまうのではないかという恐れです。こうした恐れのほかに、女性は子どもが家を離れて独り立ちしていくこと、子離れもあります。

また、以前はあった夫からの関心がなくなるという喪失に反応しても、うつになるのです。閉経にともなうホルモンの変化によって、うつになる場合もあります。データははっきりしませんが、女性によってはエストロゲンなどのホルモン療法が有効な場合もあります。

男性も中年期にうつになり、これを不適切な性的行動で表すことがあります。自分がまだ若いことを確認するように、若い女性にひかれたりします。これは深刻な不安定さ(自分が老いていくのではないと信じこもうとしている) のためです。

中年期のうつは性的行動に現れることが多く、または飲酒量が増える、体重増加、さらに前述したうつの諸症状として現れることもあるでしょう。

加齢とうつ

高齢化すると、個人の人格が際立ってきます。そしてこれまでもずっとうつの症状があった人は、加齢とともにいっそううつの症状がひどくなります。村照的に、人生を肯定的にとらえ、ありのままの自分に自己評価を感じている人は、成長し続けるために加齢とともにいっそう満ち足りて、賢くなっていきます。

基本的ニーズ(自己評価、他者との親密さ) は以前にもまして満たされることでしょう。一方、年をとると、脳細胞の一部が減少していくために差恥心が減っていき、罪悪感が増えることが問題となります。

老人はまた、孤独になるためにうつになることがあります。伴侶を失って、落ちこむこともよく見られます。この場合、同性の友人たちが大きな支えになります。

仕返しの手段としてうつになる

多くの人が、仕返しのための手段として、うつ、怒りを吐き出します。こうしてある程度の怒りは出せますが、しかし他者もみじめにしてしまいます。慢性的なうつの伴侶と暮らすことは相当に刑罰的ですが、これはその人の無意識の仕返しの場合があります。こうした患者には、私たちはほかの方法で伴侶に接する方法はないか考えてもらいます。そして怒りと向き合い、伴侶を許し、それによってうつを晴らすようにと薦めます。

人の関心をひくためにうつになる

うつを、人の関心をひくための手段として使う人がいます。これはすでにふれたようにうつで人を操作するのと同じです。

実際、うつは最初は人の関心を集めますが、しかし本人に舞い戻ってきて、やぶへびの結果に終わります。本人と向き合おうとする家族や友人がイライラするようになって、いっそうのトラブルをひきおこします。関心をひくためのうつは、伴侶や友人の喪失につながることが多く、さらなる深刻なうつにおちいることになります。

仮面うつ

1950年代に一般に知られたのが、この「仮面うつ」です。これは、病理学的には何の根拠も持たないように見える体の不調をいいます。

この状況には抗うつ剤が効果的です。前述したように、自分には何ら感情の衝突はないとして自分をごまかすために、感情の衝突を身体の衝突にすりかえます。これは面子を保つ防御メカニズムです。こうした人の多くが、筋肉痛、咬合不全、慢性疲労感、内耳障害、多発性硬化症などの不安を訴えますが、根拠が見られません。

生活の変化は想像以上のストレスとなり、うつを招く

自分がなぜうつなのか理解できないある若い男性です。しかし、よく話を聞いてみると、彼は前の年に多くの変化を経験していたのです。

実際、彼が経験した人生の変化を、「変化適応ストレスチャート」で加算してみると、なんと400以上になりました。研究者は、人生の変化のポイントが年間で合計200以上の場合、精神障害の深刻な増加につながると言っています。

また、ストレスをおこすひとつの原因に、喪失のひとつである引越しがあります。何度も引越しをさせられる子どもは、うつになることがよくあります。

もっともストレスをおこす変化は、配偶者、親、その他の親しい親戚との死別です。そして、死亡率は死別の1年目にぐんと高くなります。しかし、私たちが全米中の治療した数千件のケースでは、愛する配偶者の死よりも離婚のほうがより高いストレスとなっているようです。

子どもにとっては、親の死がもっともつらいものです。明らかなうつになったり、してはいけないことをしたり、未練がましい行為などでそれが示されます。子どもが不安定であれば私たちはほかの方法で伴侶に接する方法はないか考えてもらいます。そして怒りと向き合い、
伴侶を許し、それによってうつを晴らすようにと薦めます。

うつを多角的に見る

精神疾患は、普通ひとつの要因のみでおこるのではなく、いくつかの要因がかかわっていることも多いのです。たとえば精神疾患の場合、遺伝的背景は重要です。

とりわけ躁うつ病(気分障害) の場合、血縁者のなかに同じ症状を持つ人がいる確率が高いと言えます。また、統合失調症(精神分裂病) の親を持つ子どもは、子どもがたとえ親から離れて育てられても、同じく統合失調症(精神分裂病) になる確率が高いと言われています。

次に人格の形成に影響するのは、環境です。子どもはときに控えめに、積極的に、ときに行儀よく、そしてときに粗野にしつけられるのです。たとえば、16歳の男の子がなぜ行儀が悪く、反抗的で、すなおでないのか、彼の親は頭をかしげます。しかし親は一度もしつけをしていなかったのです。

このなかには身体の健康に対する正しい知識も含めてもいいでしょう。大人も子どもも、体が不調だと感情的ストレスに耐える能力が低くなります。普通、心理的な問題にもっとも大きな影響を与えるのはやはりストレスです。ある人が遺伝的要素を持っていて、幼児期の環境も劣悪だったとしても、何らかの急性のストレスが生じなければ、心理的問題はおこらずにすむかもしれません。

遺伝と環境的背景は非常に重要です。これをないがしろにするわけにはいきません。しかし、これらだけを現在の行動の言い訳にするのも誤ったことです。多くの問題は、機能不全な行動ゆえにもたらされたのです。遺伝が要因と強調されるうつは、内因性うつと呼ばれます。これは内側から、生物化学的に、そしてもちろん遺伝的なことが誘因となっているということです。

環境が要因となるものは、神経症性うつと呼ばれます。これは子ども時代の無意識レベルの、未解決の葛藤からおこります。急性のストレスが原因とされるうつは、反応性うつと呼ばれます。つまり圧倒されてしまぅような問題のある状況がうつの原因になっているということです。

うつ患者の特徴

うつの人には、いろいろな共通した人格特徴が見られます。

  1. 心配症で悲観的なものの見方をする
  2. 何をやっても無駄、ダメだと感じる
  3. 自分に無価値感を持っている
  4. 過去にひたる
  5. イライラしている
  6. ものごとに集中できない
  7. 体を動かすことがおっくう
  8. 死の不安がある
  9. ものごとに興味がなくなる
  10. 朝起きるのがいやだ
  11. 食欲減少(普通は減少するが増加もする)
  12. 体重減少(普通は減少するが増加もする)
  13. 疲労感がある
  14. 手足が冷たい
  15. 眠れないことが多い
  16. ときどき睡眠が増える
  17. 朝早く目がさめる
  18. 性欲の減退
  19. 生理不順
  20. 自殺念慮
  21. しよっちゅう泣きたくなる
  22. ユーモアのセンスがなくなる
  23. 緊張性頭痛、動惇、感染症、胃腸障害がある
  24. 熱意が失せる
  25. 自分の体に現実感がない
  26. 他人に意地悪されていると感じる
  27. 人に過剰に期待し、かといって拒否されるのを恐れる。
  28. 人は自分に腹を立てていると(そうでなくとも) 確信する
  29. 他の家族員の怒りの対象となる

甲状腺機能低下症とうつ

甲状腺機能低下症がうつをもたらすことがあります。医師は長年の知識として、甲状腺の薬がうつに効くということを知っています。

低甲状腺症によってひきおこされるうつばかりでなく、他のいくつかのうつも含みます。甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH6)が効くこともあります。

うつは甲状腺に影響を与え、低甲状腺症の発症を促すことがあると、科学者は考えています。心と体は緊密に関係しあっていることはよく知られていますが、どちらが先に発症するかはかならずしも知られてはいません。しかし、感情的、精神的に成熟すれば、身体的な病気の大半は避けられると、私たちは信じています。

低血糖がうつの原因

低血糖は、今日強調されすぎており、低血糖について善かれた本が多く出版されています。疲労、うつ、その他ありとあらゆる病気の原因が低血糖とされてきました。

この考えについては、医学界で疑義を抱く人も多いのです。低血糖は実際に存在し、不安を高じさせ、既存の感情的問題をさらに悪化させますが、不安やうつの大半がそれで説明しきれるものではありません。

うつの原因かもしれない「低血糖症」

生体アミンのアンバランス

脳内アミン(とくにセロトニン、ノルエビネフリン)が神経細胞間のシナプスを行き来している神経伝達物質であることは前述しました。こうした神経伝達物質の減少はうつの一大原因と考えられています。この仮説を支持する土壌には以下のようなものがあります。

  1. ずっと前に、レザピンという薬物が高血圧の治療に用いられており、レザピンを服用していた人の多くがうつになったと報告されました。現在では、レザピンは脳内アミンを枯渇させることが研究室での動物実験などによって明らかになっています。
  2. うつの治療に使われる薬は、脳内アミンレベルを上げることで知られています。脳内アミンが正常レベルに達したとき、明らかにうつの多くが消えます。実験によれば、これらの薬物は過敏で、落ち着きがない状態をひきおこすこと、つまり気分を上げることもわかっています。
  3. 深刻なうつ患者の尿中には、カテコラミン代謝物(生体アミンが小さく分解されてできるもの)が少量しか見られないことがわかっています。
  4. うつには強力な生物学的要因があるという証拠に加え、心身症はうつがあるときにおこると言われています。たとえば、睡眠障害、食欲の増加・減退、性欲減退などが見られます。また、うつは代謝障害などの病気とも関係することもわかっています。これは、うつには生物学的要因があるという仮説を裏づけるものです。
  5. 脳内アミンのうち、アメリカでもっとも注目を浴びているのがセロトニンとノルエビネフリンです。これらアミンの研究から、うつはこうした脳内アミンの枯渇の結果おこるという理論が出てきました。セロトニンが枯渇し、パキシルのようなセロトニンのレベルを上げる薬に効果が見られる場合もあります。トフラニールはおそらくノルエビネプリンとセロトニンの両方のレベルを上げ、パキシル、プロザック、ゾロフトのような抗うつ剤との組み合わせでよく使われます。プロザック、ゾロフトを服用すると、体重が減少する傾向があり、やせすぎる場合は服用を中止しなくてはなりません。

内分泌のアンバランス

うつと内分泌障害に関連があることは以前から知られていましたが、最近の研究の結果、この関係はより明らかになってきました。

脳下垂体はAC H(副腎皮質ホルモン)、成長ホルモン、黄体形成ホルモン、、甲状腺刺激ホルモンなどを分泌しています。

視床下部は放出因子を分泌し、プロラクチこれを受けて脳下垂体が前述したホルモンの放出をひきおこすのです。さらに、視床下部からの放出因子はノルエビネフリンなどの生体アミンによってコントロールされていることが知られています。

もちろん、これはセロトニンと同じくうつの場合に枯渇することが知られている物質です。よって脳内生体アミンに乱れがあれば、うつがおこり、また内分泌異常がおこる可能性があります。これは正しいことが証明されてきています。

またうつの場合、血中コルチゾール( ストレスホルモン)レベルが上がることがわかっています。考えられるのは以下のことです。

コルチゾールレベルが上がると、抗体を作り出すリンパ球(白血球の一つ) が抑えられます。抗体が減少すれば、人はありとあらゆる病気にかかりやすくなります。つまり、ためこまれた怒りはノルエビネフリンを減少させ、これが視床下部からのACTH放出因子を増やし、脳下垂体からのACTHを増加させ、副腎腺からのコルチゾール放出を促し、リンパ球を減らし、抗体を減らし、あらゆる感染症にかかりやすくさせるのです。蓄積された怒りが主要な死因となるのです。

また、黄体形成ホルモン、成長ホルモンのレベルが下がることがあることがわかっています。性衝 動 の低 下 は 、 う つの場 合 によ く お こ る こと が 知 ら れ て いま す 。 これ は 、 性 ホルモンへの内分泌システムの影響によるものかもしれません。甲状腺刺激ホルモン放出因子が投与されると、うつの症状が一時的にやわらぐという興味深い報告もあります。こうしたデータはすべて、うつと、セロトニンやノルエビネフリンなどの脳内アミンの低下、そして内分泌障害の間には関連があるという仮説を支持しています。

電解質の障害とうつの関連

うつ障害には、よく電解質の異常が見られます。たとえば、ナトリウム、カリウムの障害が、うつ、および操の両方の患者に見られます。

この電解質の乱れ(障害) がうつをひきおこしているのか、それともうつの結果としておこつているのかは不明ですが、おそらく後者でしょう。電解質は、うつ要因であるノルエビネフリンなどの神経伝達物質の合成、保存、放出、不活性化に重要な役割をはたしています。

電解質の分布はいくつかの方法によっておこります。たとえば、ナトリウムの分配はコルチゾール、アルドステロンなどのホルモンに影響を受けます。そして、コルチゾールはまたノルエビネフリンなどの生物アミンレベルによって影響を受けます。最初にどちらが影響を与えるのかははっきりとわかっていません。電解質が感情障害とかかわっているという私たちの最終的証拠のひとつは、炭酸リチウムが感情障害の治療に劇的な作用を発揮することでもわかります。この炭酸リチウムのはっきりした電解質代謝への効果はわかっていません。

ウィルス感染を併発する

うつはよくウィルス感染症をともないます。ウィルスによる比較的軽度の呼吸器系感染症を持っている場合でも、気持ちが落ちこむことがあります。

これは身体的、生化学的レベルでのことです。一時的なウィルス性の疾患は、一時的なうつに似た症状をひきおこすことがあります。また前述したように、うつになると、ウィルス性疾患を含めたあらゆる感染症にかかりやすくなります。

 

ストレスはうつを加速させ、複雑化してしまう

ストレスには、たとえば子どもが白血病にかかっていると告知されることから、伴侶の浮気を発見することまで、またあなた個人が極めて緊急なストレスを感じる状況まで、いろいろなことが含まれます。

私たちはこうしたストレスを、直接自分で、あるいは無意識に自分でもたらしているのです。なかには、すべてのストレスは自分の罪と無責任ゆえにもたらされたと考える人もいますが、これは賢い考え方とは言えません。

もし、子どもが白血病で死に行くとわかった親が助言と慰めを求めてきたら、私たちは心の底から、彼女とともに悲しむでしょう。病気や死は彼女の罪の結果などではなく、人が生まれたり恋に落ちたりするのと同じく人生の一部であることを彼女に告げるでしょう。

なぜかと言うと、子どもの死は、親が犯した何らかの罪の裁きに違いないと、誤って考える人がいるからです。

そう考えることは間違いです。一方、週に2回夫に殴られていると言って助けを求めにくる女性に対しては、私たちはもしかしたら彼女は受動攻撃性人格で、無意識的に夫の爆発的行為をひきおこしているのではないかと(もちろん、夫の責任は少しも減らないわけですが) 疑ってみることがあります。

こうしたタイプは、夫は暴力行為におよんだあと、非常に後悔を感じ、その後数週間は妻にやさしくします。その間、妻はまわりの人から自分が何よりもほしい同情を得て、無意識の欲求を満たしているのです。彼女は自分自身の罪悪感を晴らし、すべての男は父親と同じく女を殴るものだということを証明しようとしているのかもしれません。

ほとんどの人は、自分の異性の親とよく似た人と結婚します。その親がどんなにひどい親であったとしてもです。そして、虐待された子どもはしばしば、大人になって虐待の加害者と結婚します。

歴史をくりかえすのです。これは精神科医が毎日のように出くわす状況の一例にすぎません。私たちは、自分で自分の人生をコントロールしていると思っている人間に会いますが、実際には彼らは無意識の動機に支配されるままになっているのです。

普通、人間はストレスの原因を、生きることを耐えがたいものにする何らかの外部環境に求めようとしますが、カウンセラーなら、そのストレスに影響されないために、本人ができることを探すべく、本人の心(無意識の思考、感情)に焦点を当てるでしょう。なかには、専門家のカウンセリングを受けることを好まず、ばかにする人さえいますが、これもまた自分自身の防御のしわざなのです。知識のある聖職者や専門のカウンセラーの援助を得ることは、人生の圧倒されそうなストレスを克服する助けになるのです。

良質のカウンセリングを得て、それを人生にあてはめていくことは、人生の師を得ることと同じです。愛に満ちた洞察力のある友人、牧師、カウンセラー、ときに精神科医らによる問題への直面化を通じて、多くの人々が救われるのです。科学的研究によれば、深刻なうつの85% がストレスによってもたらされることを示しています。さらに自殺を企てる人の環境は、極めてストレスの多い状況であることがわかっています。以下は、うつの原因としてよく見られる大きなストレスをリストアップしたものです。

大切なものの喪失
うつをもたらすもっともよく見られるストレスは、愛する人の死や離婚などの重大な喪失体験です。

うつをもたらすもっともよく見られるストレスは、愛する人の死や離婚などの重大な喪失体験です。

昇進は、新しい役職で頑張らなければならない、しかし自分の能力では無理だと感じるなど、大きな脅威になり、かなり落ちこむ理由になることがあるかもしれないのです。

怒りが自分の内面に向かっている
深刻な喪失には、さまざまな反応がおこります。気づいているいないにかかわらず、何らかの怒りの反応をすることもあります。

この怒りが抑圧されると、うつになるのです。つまり、
重大な喪失を経験した際、それと向き合わなかったり、誤った対応をとるとうつとなるのです。

たとえば、ある人が死んだ人に怒りを抱いていたとします(親、兄弟との死別を体験する子どものほぼ全員が、カウンセリングを必要とします。数年間続くような、そして命日のたびに悪化するようなうつを防ぐためです)。死人に怒りを表すことは、自分にとってとても受け入れがたいことであるため、怒りは内側に向かい、その結果がうつとなるのです。

子どものとき虐待された人もまた、かなりの怒りが内側に渦まいています。そして自分は「くず」で、いじめられて当然だと誤って信じこんでいます。このテーマに関する多くの文献で、うつは内側に向けられた怒りであると記されています。

たいていの場合、怒りはうつの人の顔の表情、声、ジェスチャーなどに明らかに表れます。相当な怒りを持っているのですが、普通その怒りに気づきません。かえってそのことを指摘する精神科医に向かって腹を立てたり、感情的に否認したりします。もし自分自身をビデオで見ることができさえすれば、自分の強烈な怒りを認めることでしょう。本人はまた防御的であることも否認するでしょう。この怒りとどう対処するかは、後ほど。

自己イメージが傷つけられる
うつを加速させる出来事として、「自己イメージの傷つき」があります。離婚した人の多くは自分が拒絶されたと感じ、自己イメージが傷ついています。外部状況に直撃された結果、自己概念が低下するのですが、これはまた内側からもおこり得ます。

たとえば、私たちが罪を犯すと、良心が痛み、自己イメージは自動的に低くなります。この状態は、その罪が神と自分自身によって許されるまで続きます。ある患者の例ですが、その患者は2ヶ月間うつ状態が続いていると訴えました。

私たちは「この2ヶ月間、何をなさってきましたか? それがうつの原因だとも考えられませんか? 」と尋ねました。するとその患者は驚いたふうに、「実は愛人と関係を持っていたんですが、それとうつとが関係あるとは知りませんでした」と言うのです。その後、彼は愛人との交際をやめ、また自分自身をも許すと、うつは消えたのです。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)
PTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉は、重大なストレスを受けて、非常に不安、うつ状態になっている状態を表すときに用いられます。私たちはみな、ときに深刻な問題を経験し、不安にかられたり、落ちこんだりします。しかし普通私たちは問題に対処でき、それがぅっに発展する前に何とか対処できるのです。しかし、深刻なストレスは、悪夢、パニック障害、うつにつながります。
偽りの罪悪感を持つ
前述したように、強迫神経症の人は自分に厳しく、批判的です。心配性で偽りの罪悪感に陥りやすく、しまいにはこの心配と偽りの罪悪感が自分に向かうようになります。ある意味で、彼は自分に歯向かっているのです。不健康にも良心は自分に歯向かい、やがて弱体化して、うつがもたらされます。
真の罪悪感を持つ
真の罪悪感はうつの原因になりえます。うつをひきおこすに至った真の罪悪感は、道徳的、倫理的あるいは宗教上の罪を犯した人の正常な反応です。事実、罪を犯して、真の罪悪感にかられない人は、回復が困難です。正常に反応する人たちが、罪と真の罪悪感のためにうつを患うのです。
誤った見方
患者の多くに共通して見られるうつをひきおこす原因は、誤った物の見方です。私たちは豊かな社会に生き、多くのかたよった情報や誘惑にさらされています。そのため、容易に誤った見方におちいってしまうのです。

ここでまとめましょう。多くの人々は、ストレスがおこつて疲労回復するまで何年もうつと対処し、戦い続けます。

うつが結果としておこった場合、その誘因となっているストレス(それが何であれ) はつねに、抑圧された怒りによるものです。積み重なったた怒りは、うつの大半に見られます。大半のストレスは、自分自身の極めて微妙な、無意識の、自己破壊的態度、感情、行動パターンによってもたらされます。

しかし人生には、たとえば愛する人を失うとか、自分自身の死と向き合うなど、私たちが村処しなければならない十分すぎるストレスがあります。ストレス誘因に、もし私たちが責任もって対処すれば、うつをひきおこすことはありません。くりかえしますが、幸福は選びとるものなのです。

うつ を演じる 演技性人格障害 について

強迫性人格(完全主義) についてふれましたが、それとはほぼ逆の人格障害があります。

これは「演技性人格障害」と呼ばれるものです。演技性人格障害の男性、女性は非常に感情的で、外交的、ドラマティック、衝動的、純真、そして非常に誘惑的です。彼らはルックスもよく、社会的にかなりのカリスマ性を持っています。

強迫性人格が男性に多く見られるのに対し、演技性人格障害のほうは女性に多く見られます。完全主義者はだれよりもうつになりやすいのですが、演技性人格障害の人はうつの演技をします。演技性人格障害の女性はとくにうつを訴えます。

しかしよく診察してみると、彼女らがうつに関する最新のすぐれた本でも読んでいないかぎり、真のうつを患っていると診断されることはごくまれです。

こうしたケースを「演技的うつ」と呼ぶことがあります。演技性人格障害の人(男女ともに) も他の人格障害のタイプと同じく、ときにうつになります。しかし彼らは、子どものころからずっとうつのふりをするか、あるいは人を操作するために一時的にうつになるのです。人の関心を向けたいとき、権威ある人(普通、親、友人、伴侶など) の言いなりになりたくないときにそうするのです。

完全主義者の場合、深刻に自殺願望を訴えるときには本人を保護するために入院させます。しかし演技性人格障害の人が自殺したいと言っても、私たちは普通、「それもひとつの選択肢ですね。でも、あなたが怒っていることを他にどんな方法で表せるでしょうね? 」と言います。そして夫に対して過激に行動してみせるかわりに、夫にその感情を告げるなどの他の選択肢をいくつか話し合います。

すると、数分間のうちに自殺をほのめかすようなうつ状態は解決するのです。自殺を何回も「試みた」演技性人格障害の患者は数多くいます。ある方は自殺を17回「試み」ました。しかしこうした患者のうち、実際死亡してしまう人はごくわずかです。

このタイプの患者が実際に自殺をする状況についての報告を読んだことがありますが、普通、死に至ってしまうのは事故の場合が多いようです。

たとえば、ある演技性人格障害の女性が夫に腹を立てているとします。夕方5時に薬物の多量服用をすれば、5:30には夫が帰宅して彼女を見つけ、病院の救急室に担ぎこまれるという筋書きを立てます。しかし夫の帰宅途中に車のタイヤがパンクして、家に着くと6:30を回っており、妻は死んで発見されるわけです。彼女はまったく死ぬ気はなかったのです。

こうして衝動的に、「事故」で自殺したことになるのです。私たちはもちろん、演技性人格障害の患者であれ、すべての自殺するという脅迫を深刻に受けとめます。というのも、事故死という可能性もあり、自殺をほのめかす人の1割が実際に死亡しているからです。ですから、私たちは演技性人格障害の患者の自殺の脅しを現実的に受けとめ、そうすることで患者は脅しの手を使わずに、怒りを別の方法で表現することを学ぶことができるようになるのです。

強迫性人格の場合と同じく、演技性人格障害の根は、子ども時代にさかのぼります。もし女の赤ちゃんを演技性人格障害を持つ女性に育てたいと思うなら、母親は次の12のルールに従えばいいのです。

  1. いつも母親に意思決定を頼るように仕向け、自分で考えなくていいようにする。
  2. 彼女を甘やかし、つねにいいなりになる。とくにふくれっ面をしたり、泣いたりしたときは折れる。
  3. けっして夫の性的ニーズを満たさない。暖かさと愛情を求めて、夫は妻のかわりに娘に過剰な愛情を注ぐようになる。
  4. 娘が自分を否認するテクニックを学べるよう、たくさん嘘をつく。
  5. つねに性格ではなく、ルックスをほめる。あちこちに鏡をおいて、始終自分にうっとりさせる(これは演技性人格障害を作るのに一番大切なルール)。
  6. 彼女が家出したときは(おそらく彼女は頻繁にそうするだろう)、かならず彼女のあとを追い、最初から彼女の言うようにしなかったことを謝る。
  7. 彼女が悲しそうで、24錠のアスピリン、睡眠薬などを飲みこんで自殺のまねを装うときは、彼女の言うことを最初から聞き入れなくて悪かったとかならず伝える。これは簡単である。なぜなら彼女は母親やボーイフレンドが近くにいて彼女を救ってくれる状況がなければそもそも多量服用をしないから。
  8. 映画スターになるよう彼女に薦める。それまでに彼女は十分にドラマティックで、演技はかなり自然に身についているだろう。
  9. 離婚、再婚を2~3回くりかえし、男はみなクズだと教える(しかし彼女はそれでも男と暮らすはず)。
  10. 誘惑的な衣服を着るよう薦める。しかし、実際はあまり薦める必要はないだろう。なぜなら彼女は父親を喜ばせるために自然とそうしているだろうし、父親は娘の性格でなくルックスのよさを賞賛し続けるだろうから。
  11. 娘がデートから帰るのが2時間遅れたら、夫といっしょになって娘をしかる。そして好奇心いっぱいの笑いを浮かべて、興味をくすぐる詳細を聞き出して楽しむ。しかし娘のアドベンチャーを自分がどんなに楽しんでいるかは、たとえ娘は知っていても、気づかせないようつとめる。
  12. 具合が悪いふりをする彼女につくしてあげる。そうすれば彼女は自分の本当の感情に向き合うかわりに病気になって、医者から医者を渡り歩き、しかし何も悪いところは見つからず、こうしたいばった男性の医者たちにますます腹を立てるようになる(だが、助言を求めて何千ドルも使い続けるだろう)。

世界中で精神科の聖書とされている「精神科診断マニュアル」によれば、演技性人格障害の人は、「興奮性、感情の不安定、過剰反応、自己の演劇化に特徴づけられています。この自己の演劇化はつねに関心を呼ぶためのもので、患者はその意図に気づいているいないにかかわらず、誘惑的であることが多いのです。こうした人格はいつも未熟、自己中心的で、うぬぼれが強く、普通人に依存する」となっています。

演技性人格はまた、私たちが受動攻撃性人格と呼ぶ性格傾向(これには「妨害癖、ふくれっ面、ものをぐずぐず先のばしにする、わざと非能率的にものごとを処理する、頑固」などが含まれる) よりも高い率で見られます。

これらは敵意をむき出しにすることなく、依存している人に仕返しをする方法です。私たちの大半がときにはこうした方法のどれかをとったことがあるものですが、真の演技性人格を持った人は、つねにこのようにふるまいます。

ここで2つの短いケーススタディを出しましょう。ひとつは、数年間の治療に通った女性(ジェーン)の演技性人格のケースです。

ジェーンについては、すでにグリーフ(深い悲しみ) を否認しています。彼女は14歳のとき、何度も家出をくりかえして、薬物に手を出し、奇妙な行動をして、総合病院の精神科に入院しました。

たとえば、学校のトイレでかみそりを使って自分の背中を切り、教室にかけこんで、女性の先生(彼女が好意を寄せていた)に切られたと告げるのです。自分に注意を向けてもらうためならほとんど何でもするのです。彼女が病棟のジュースの乗ったカートに向かって話しかけているのを見たとき、完全に精神症状が出現したのかと思いました。しかしあとでわかったことには、それも、人に注意を向けてもらうための演技だったのです。

彼女は病院での集中的な6週間の精神療法ののち、2年間外来で週1回の精神療法を続けました。その間、半日ほどいなくなったことが1回、薬の多量服用が6回ほどありました。これは、すべて母親を操作するためです。ときどきマリファナを吸い、100回もかんしゃくをおこしました。

それでもそのすべてが以前と比べると劇的に改善しているのです。彼女は16歳で少女のための小さな施設に入ったのですが、そのころまでに彼女はだいぶん成熟していました。最初患者としてやってきた14歳のときの彼女は、IQテストは135という高得点であったにもかかわらず、心理的成熟度は3歳だったのです。

16歳で彼女はやっと10~12歳くらいのふるまいができるようになりました。親は、子どもの健康な成長に必要なものを提供できない状態を14~16年も続けてきたあとで、精神科医に数週間で自分たちのミスを全部治療できるだろうと期待するのです。

ことはそう簡単ではありません。 私たちにできることは、親が子どもの課題をのりきる方法のいくつかを探しだす手伝いをするだけです。ジェーンの人生最初の6年間をみてわかったことは、母親が上流階級の出身で、父親は経済的に成功していても、心理的にはとても弱く未熟、といった環境で育ったことです。

家庭では母方の祖母が支配的で、この彼女もまたビジネスの成功者でした。母親は夫をけっして性的に満足させたことはありませんでした)。それで父親は関心をすべて娘に向けました。そして彼は、妻や娘以外の他の兄弟たちを完全に無視しました。

いかにが愛らしいかを何度も何度もほめたたえました。しつけたるものはまったく考えにおよびませんでした。

ほしがるものは何でも与えました。父と母は別々の寝室で、娘は毎晩父といっしょに寝ました。就学前には少なくとも一度、母方の祖父に性的いたずらを受けています。

この祖父もかなり老いており、支配的な妻からけっして性的満足を得ていませんでした。

5歳のとき、彼女と父親がいっしょにべッドで寝ていると、突然父親が心臓発作をおこしました。救急車が呼ばれ、寝室から彼が出て行くときに、「心配しないで、、戻って来るからね」と言ったのです。

しかし父親は病院で息を引き取り、それを信じょうとしませんでした。数ヶ月、彼女はクローゼットやドアのうしろを探し続けました。父親は娘の命そのものだったのです。

彼女は想像力をたくましくして、日に何回も父の名を呼び、父が彼女に話しかけるために部屋に入ってくるのを想像しました。

16歳になってようやくそうするのをやめましたが、それでもたまにそうしているようなふしがあります。強大な否認のテクニックを用いて、ときに彼女は実際そこに父親がいると信じるのです。.

自分がこんなに父のことを必要としているのに、彼女をおいていった父を責めました。もし彼がまだ生きていて、まるで妻のようにふるまい続けたなら、状況は現実よりはるかにひどくなっていたことでしょう。

しかし彼女は父を愛するのと同時に嫌悪していました。彼女は男性一般に対して苦々しい態度をとるようになり、また、大人になるにつれてますます誘惑的な行動をとるようになりました。彼女はまさに演技的人格をフルに発達させました。

2年間定期的にセラピストに会うようになって、彼女は彼女の誘惑、操作に引っかからない、そのかわりに真の愛を率直に示す年上の男性を信頼し、見分けられるようになってきました。

セラピーを受けている間、彼女は信仰をもって成長しようとしましたが、やがて父を操作したのと同じ方法で、神を自分の都合のいいように理解しょうとしている自分を発見しました。ほとんどの人と同じように、彼女は、神は父親みたいなものだと思い、神の全知性、無限力、真の愛と完壁な正義を受け入れるのに困難を覚えたのです。

母親に、家でどう彼女を扱うかに関して話をもちかけましたが、関節炎と心臓病を患った母親は、適切な方法でをしつけることができずは近くの町の小さな施設に住むようになったのです。そこで彼女はうまくやっているとのことです。前述したように、演技性人格障害を患うのは女性ばかりではありません。前に紹介したリストを息子に当てはめれば、容易に息子を演技性人格に育てることができますし、実際多くの男性の演技性人格者がいます。すぐに思いあたる方もいるでしょう。

演技性人格障害の患者は、意識的、無意識的に異性を誘惑し、相手をおとしめてその相手もまた他の男(女)と同じく無価値であることを示そうとします。

売春をする多くの女性が演技性人格であると言う人もいます。多くの演技性人格障害の女性は、性的に自分をおとしめてくれるいい男を求め、そしてまわりの人間には「彼にそそのかされた」と言いふらし、彼の評判を傷つけるのです。

演技性人格の女性の内的心理

過剰に感情的な(演技性人格の)大人の女性の心理構造をさらによく理解するために、かりにMという女性に登場してもらって、彼女の思考、感情を探ってみましょう。Mは社交的で、人好きのする成人女性で、現在2度日の結婚生活を送っています。

最初の結婚は17歳のときのことでした。相手は「ドンファン」タイプでカリスマ的なすごいハンサムで、しかし依存的な男性でした。彼女は、セックスが妊娠につながるということを「うっかりして」忘れてしまったために、結果として彼と結婚することにしたのでした。

実際は、私たちの意見では、彼女は無意識に彼女の父を罰するために妊娠したかったのです。彼女と最初の夫との間では最初からケンカが絶えませんでした。そして両者ともに、カウンセリングに通うことで衝突を解決しようとするほどの責任感は持ち合わせておらず、結局「性格の不一致」のせいにして離婚しました。

これはよく見られる理由づけです(実際には「性格の不一致」たるものはなく、ただやる気のない人間が二人いるだけです。いかなる人格タイプの二人でも、いいカウンセリングを受け、プライドを飲みこみさえすえば、幸せな結婚生活をおくることができます。

ただし両者ともに、何らかの責任ある変化をもたらす意欲がなくてはいけません)。マリリンは離婚後、1人でいる自由さに耐えられずに、すぐに経済的に安定した、自信たっぷりの年上の男性と結婚します。彼女は、彼が相当な強迫性人格であることや、彼の安定感、自信がうわべだけのものであることを理解していませんでした。

また、彼女にとって彼は、対等なパートナー同士であるというよりも、父親代わりだったことにも気づいていませんでした。さて、このMの思考プロセスの内奥まで入りこむ旅を進めていくにつれ、私たちはものごとがより鮮明に見え始めるでしょう。

たとえば、Mは感情的で、興奮しやすく、ときに気落ちしているように見えますが、人好きのする、とてもさわやかな人格のときもあります。彼女は社交的でもあり、パーティの華です。人々は彼女の華やかさにひかれて周囲に集まります。彼女は本当にカリスマ性があり、人々は彼女といるのが楽しみです。

彼女はときに芝居がかっていて、魅力的な身体をしており、人の関心をとりわけ必要としています。彼女は活発で、言葉使いは演劇的かつ表現力たっぷりです。心の奥底では自分自身を愛していないにもかかわらず、人を落ち着かせる能力を持っています。

また、彼女は表面的には感情豊かに見えますが、深層レベルでは人に近づくのが苦手で、理論より感情に重きをおきます。彼女はつねに現在に生きており、未来や過去にはこだわりを持ちません。でも夫はむしろ未来に生きており、将来の目標プラン設定に忙しいのです。

Mの社交上の友人は、彼女が相当に見栄っ張りで自己中心的なことに気づきません。ようばう男性のなかに入ると、彼女は自分が心から欲する「関心」を得るために、美しい容貌を使い、彼女に近づく男性と身体的な「親密な関係」を持とうとします。とくに夫が出張でいないときなどは、他の男たちとよくセックスをします。男性の注目を得るのが大好きで、男たちを操作するためにセックスを利用するのです。

しかし彼女は劣等感を感じており、美しいにもかかわらず、自分の容姿が好きではありません。彼女の人の関心をひく能力に満足できず、自分がいっぱしの人間であることを証明しようとします。夫が彼女を甘やかさないと、彼女はアスピリンやバリウムを多量服用したりしますが、致死量までは飲みません。夫に罪悪感を持たせるに十分な量だけを飲むのです。彼女はドレスやしぐさで巧妙に誘惑し、自分が望む関心を得ようとします。

彼女は拒絶を強烈に恐れているのです。彼女は異性としょつちゅう衝突します。異性をときに過小評価し、またあるときは過大評価します。父親と多くの衝突があり、けっして折り合いをつけていなかったからです。彼女は、子どものころ、うまく操作すれば父親をコントロールできることを学んだことを覚えています。

しかし父親もまた、ときに予測不可能な行動をする男性で、彼女はこれを父親に拒否されたとあいむじゅん感じています。これがのちに男性に拒否される恐れとなり、同時に男性への相矛盾する感情を抱かせることになります。父親やその他の男性への強力な怒りがたまっているため、彼女は夫とのセックスでは冷感症ですが、他の男たちとなら、ある程度セックスを楽しめます。

社会的には、彼女はとても暖かく魅力的な印象を与えますが、感情の起伏が激しく、ものごとを理性的、論理的に見つめる力が欠如しているため、生活はとても不安定です。感情は大切ですが、感情は気まぐれで移り気なのです。

Mは相当感情的であるにもかかわらず、多くの深い感情を抑圧しています。とてもオープンに見えるので、新しい友人はずっと以前からの知り合いのような気持ちになりますが、表面的な関係以上のものを築くことは難しいのです。つまり彼女の知り合いは、彼女と知り合って1時間しかたっていない人程度にしか彼女のことを知らないのです。

Mは、落ち着いた自信たっぷりげのうわべの印象を作り出しますが、不安定感を感じひんばんています。そして療繁に退屈さを味わいます。また、夫はいつも時間に正確ですが、彼女はたいてい時間にルーズです。

これは夫を罰するために彼女が無意識にすることです。そして、彼はすべてを詳細に計画しますが、彼女は詳細はどうでもいいのです。夫は実にきちんと道義をわきまえた人ですが、マリリンは非常に衝動的で印象やカンに頼ります。

一方、アート、音楽にとてもクリエイティブで、鮮やかな生き生きした創造力を持っています。夫はお金に関しても非常に厳しいのですが、マリリンはかなりの浪費家です。

Mはまた、男性と張り合おうという敵対心を持っており、性的にも男を負かそうという気持ちを持っています。セックスを通じて男を魅了し、コントロールします。そして、彼女は権力のある父親的な人物を選びます。男は彼女の容貌ゆえに、ステータスシンボルとして彼女を見ます。

また、彼女は母親的な人物でもあり、男の甘えのニーズを満たします。Mの幻想は、愛と人の関心をめぐつてふくらみます。一方で強迫性人格の夫は、パワー獲得を追い求めています。

子どものとき、Mは病気になって人の関心を得ることができました。また子どものころ、自分の要求を認めさせるには芝居がかったやり方が効果的だったのを覚えています。

また彼女は、過剰に母親に甘えることを学びました。これは彼女の成熟を妨げることとなり、それしっとでいっそう彼女は、特権は男に与えられていると感じ、男性に対して競争心と嫉妬を抱いたのです。幼いころは父親と非常に親密だったのですが、そのうちに父親との衝突が始まり、思春期あたりになると相当の拒否感を感じました。十代のMは人に評価され、認められようと必死でした。他の美人の女性たちとの関係がまずくなったのは、彼女たちが男性の関心をめぐってライバルになるからです。

演技性人格の特徴

ところで、私たちはみな男女とも、ある程度の演技性性質を持っています。私たちの経験から言えば、その傾向が強いほどに、以下の傾向が多く見られるでしょう。

  1. 外交的でいっしょにいて楽しいと言われる
  2. 演技的なふるまいが多い
  3. 不安定ですぐ興奮する
  4. 見栄っ張りで自己中心的
  5. 依存心が強い
  6. 自殺をほのめかす(薬の多量服用をするなど)
  7. 行動も誘惑的(自分では気づかない、わかりにくい方法で誘惑をする)
  8. 異性に対して相反する二面性を持つ
  9. あまりものごとを深く考えない(感情に頼りすぎる)
  10. 異性の関心を何よりも求めるにもかかわらず、無意識に異性への怒り(憎しみ)を持っている。
  11. 他人の関心をひく行為をする
  12. 父親的存在を探し求めている
  13. 父親への深い、苦々しい思いを抱いている
  14. 外見は魅力的ではきはきしている
  15. やたら大げさにものを言う
  16. とてもオープンで、多くのことをすぐに人にしゃべる
  17. すぐに知り合いになり、長いつきあいのような気分になる
  18. しかし深い親密さはめったに築かれない
  19. すぐれた想像力を持っている
  20. 相手を自分の世界観にひきこむような話術を持っている
  21. 表現豊かで落ち着いた印象を与える
  22. 時間にルーズで詳細なプランニングが苦手
  23. とっさのひらめき、カン、印象に頼り、信念を持たない
  24. わくわくする、インスピレーションを与えるような仕事が好き
  25. 他の素敵な女性に敵意や競争心を持っている
  26. 男よりパワーを持ちたいと願っている
  27. 自分は病気だと思うことで感情的問題に直面するのを避けることがある
  28. 人から愛と関心を受けることをつねに求めている
  29. 拒否されることに対しての恐れが強い
  30. 十代のころは、おてんばの時期が長かった
  31. 父親は魅力的で支配欲求が強かった
  32. 幼いころ(5歳以下)は父親と非常に仲がよかった