家族がうつ病になったときの家族の感情

パニック・ショック期
家族が「うつ病」になることは、家族を含めて周囲の人々にとって、非常にショッキングなことです。「うつ病」という病名を医師から出口げられ、パニック状態あるいはショック状態に陥り、どうしてよいのか分からなくなってしまいます。
うつ病についてよく理解しているはずの精神科医療に従事する人であっても、家族や肉親がうつ病という病名が告げられることに対しては受け入れがたい気持ちになるものです。
否認・怒りの時期
家族のパニック状態あるいはショック状態が過ぎると、次に「現実を否定する気持ち」や「怒りの気持ち」がふつふつと湧いてきます。この時期は「周囲への攻撃的な反応」や「自分を責める」ような反応があります。

うつ病患者さんの配偶者の場合、「本人に負担をかけすぎたのではないか」という自責の念が生じたり、「周囲からどう思われるだろう」「なぜ私がそのような目にあうのか」という気持ちになります。

うつ病患者さんの病前性格として、真面目、几帳面、頑張り屋、責任感が強いということがあり、家族にとってはそれまで理想的な「よい夫」であり「良妻賢母」である場合が多いです。

そのため突然のうつ病でパートナーの性格や行動がん変わってしまうことほ、なかなか受け入れがたいものです。憂うつで無気力ですべて否定的なパートナーと、一緒に過ごすこともつらく、病人だと分かっていても、うつ状態の相手を責めてしまったり、とげとげしい言い方をしてしまいがちです。

うつ病患者さんの両親や兄弟などの肉親にしてみれば、「うつ病」という医師の告知は、受け入れがたくどうしてよいのか分からなくなるものですから、つい配偶者である妻や夫を責める発言をしてしまいがちです。そのようなことがあると、一番理解してくれるほずの両親(舅姑)や兄弟でさえも味方ではなくなり、家族自身も、周囲に対し「敵意」や「拒否」の反応が生まれてしまいます。

パートナーがうつ病になったのは、遺伝や家系の問題ではないのか? 親の育て方が問題だったのではないのか? など疑心暗鬼になりがちです。

このようにうつ病は本人のみならず、周囲の人間関係まで破壊してしまう病気なのです。ですから周囲の反応がきっかけとなり、離婚するカップルも少なくありません。離婿や別居、嫁姑など家族間の対立は、うつ病の症状を悪化させ、家族を失う喪失感や孤独感、将来への不安感や対処能力のなさに絶望し「自殺」という最悪な結果を生むことさえあります。

それを防ぐためにも、うつ病というマイナスエネルギーに満ちたブラックホールに家族が巻き込まれないように気をつけましょう。また、この時期に家族が「怒り」を感じるのはごく自然な反応です。憂うつで無気力ですべて否定的なパートナーに対し、あなた自身寂しくもあり、怒りの感情を抱いてしまうため、うつ病だと頭では理解し分かっているつもりでも、うつ病のパートナーに優しく接することはとてもむずかしいことです。

自分の気持ちに反してまで、無理に優しくすることはありません。優しくできない時期は「温かな無関心」でよいのです。しかし、うつ病のパートナーに対し、あなた自身の「怒り」をストレートにぶつけたりしないことが大切です。「怒りの感情」をストレートにぶつけると、うつ病のパートナーはただでさえ神経過敏な状態にあるため、冷静で建設的な話し合いほまず不可能となります。

相手を言葉で攻撃したり侮辱するのではなく、自分のフラストレーションを穏やかに表現するよう努めましょう。たとえばあなたの帰宅が遅くなり、夕食の準備が遅れたことでうつ病のパートナーが不機嫌になってしまった場合は、「いつもごろごろ寝てばかりで私が働いて疲れているのに何て言い草なの、あなたって最低! 」と言うのを一呼吸こらえて「あなたの態度で私は傷ついたわ。私の気持ちもわかってもらいたかった。とても悲しい」と言い換えることが大切です。

うつ状態でふさぎこみ、否定的な態度や悲観的な考えしかない相手と一緒に過ごすと、こっちまで気分が悪くなり、その人の側にいるのが嫌になるものです。

しかし、うつ状態にある患者さんほ小さな子どものように甘えて家族を離さなかったり、過干渉になると不機嫌になるのに、ひとりの孤独な時間を嫌がります。家族は見えない鋳で束縛された状態で、自由に外出もできず、家族自身の日常生活を犠牲にして、相手に尽くすことになってしまいがちです。

風邪のように短期間で治る病気であれば、そのようなこともあまり苦痛ではないのですが、うつ病は一週間程度の短期間で症状がよくなる病気でほありません。数ヶ月〜数年単位の長期戦でのぞまなければいけない病気なのです。

孤立化・抑うつ期
先の見えない不安感から家族自身が抑うつになり、悲哀や自尊心の低下から「自分ほ情けない。悲しくて涙が止まらない」という気持ちになりがちです。この時期ほ、「誰とも話したくない」「現実生活を考えると苦しくて駄目」という孤立化や苦悶の反応があります。内への反応となるため、自責感などの自分自身への攻撃性が出やすい時期です。
無関心・無力感・虚脱期
うつ状態が続くと、家族自身が疲れ果てエネルギーが枯渇し、無力感や無気力から「もぅどうでもいい。疲れた」という虚脱感を感じてしまいます。時に何も感じない感情の平坦化が起こります。周囲の援助が必要な時期なのですが、本人も家族もエネルギーが枯渇した状態なので、援助を求める気力さえないのが現実です。

自殺や無理心中が起こるのもこの時期です。そのような事態を避けるためにもうつ病になったら早めに医療機関を受診し、家族自身も相談できる相手や場所を見つけておくことがポイントとなります。

この時期には、無理に感情を押し殺すことなく自分の混沌としたネガティブな感情や悲しみを発散できる場所と自分の時間を持つことが大切です。うつ病の患者さんは主治医のもとで相談できますが、家族の気持ちを理解し支えてくれる精神科医やカウンセラーが少ないのが現実です。

家族会・患者会などでは、毎月、ご家族だけが集まる時間を用意しています。家族メンバーも、この時間だけは、様々な感情をストレートに出すことができます。怒りの感情ややりきれない悲しさなどを思い切り表現し、涙を流してもらいます。

安心できる場所でネガティブな感情を発散すると、家族自身のストレスが発散されうつ病の患者さんに優しく接するエネルギーが湧いてきます。専門家のカウンセリングや心理教育だけでなく、同じ境遇の仲間から温かく支えてもらい、一緒に学ぶことがうつ病の患者さんや家族自身の回復にほ必要なのです。

日本全国に「家族会」と呼ばれる「精神障害者家族会連合会」があります。まだ「統合失調症」のご家族が中心ではありますが、同じ立場の仲間から温かく支えてもらうことが、家族であるあなた自身の回復につながります。

「受容」の時期

このつらい時期を乗り越えると「受容」の時期になります。発想の転換ができ、新しい希望が持てるようになります。この時期になったら、家族の方も学べることはすべて学びましょう。

うつ病という敵を知ることが「うつ」攻略には不可欠です。うつ柄について学ぶことは、車の運転や整備技術を身に付けることに似ています。「うつ病」は症状によっては、本人が感情や症状をコントロールしがたいこともありますから、ファミリカーというより「F1カー」やレース仕様の特別車に似ています。誰もが簡単に乗りこなせるものではないので、家族は上手にうつ病を乗りこなす運転テクニックと、ピットで整備する技術の両方を身に付けることが大切です。

回復期の患者さんは、つい頑張りすぎて無理をしてしまいがちです。まるで1分1秒を争うレーサーのようにエネルギーが枯渇しそうになっても無理に走ろうとします。そのような時に家族がピットクルー(調整役)として、患者さんが頑張って無理に動き回りエンジン故障や脱輪事故が起こらないよう、相手をよく観察し小さな体調の変化をつかみ、微調整を行います。

いつピット・インさせて、休養やエネルギー補給を行うのか、状態の見極めを担うのが家族の役割です。ある意味で、医者の役割は、自動車修理工場のようなものです。車が走るための修理はできますが、実際の場面で、テストランなどをし、試しながら微調整する能力はありません。ぅっ病が回復し、職場復帰する段階になると、医療が中心ではなく、職場や家庭での調整が中心になります。ついドライバー(患者さん)にばかり気を取られてしまいますが、家族というピットクルーがいてはじめて動くものです。

現実的な期待を持つ

現実的な期待を持つようにしましょう。残念なことにうつ病がすぐに治るような夢の新薬は開発されていません。回復までにはある程度の「時間」がかかります。「あわてず、あせらず、あきらめず」という気持ちでのぞみましょう。

長期戦にのぞむのですから、自分の生活のすべてを犠牲にするのではなく、自分の日常生活をできるだけ守るようにしましょう。短時間でも自分だけの時間を持つことで「気持ちのゆとり」が生まれます。

個人的攻撃として受け取らない

また、うつ状態の患者さんの言葉を個人的攻撃として受け取らないことが大切です。うつ病の患者さんの中には、外では「良い人」で通っている方が、家庭内では、性格が豹変し、家族に対して暴力的であったり攻撃的である場合が少なくありません。

病気になると、「いらいら感」や「やりきれない感情」を家族にぶつけてくるので、家族が相手の言葉や態度に傷ついてしまいがちです。気分障害という病気は、時として理性や感情のコントロールがうまく働かないことがあるのです。

本人がしているのではなく、病気の症状がそのようなことをしているのだと考えましょう。「本人を憎まず、病気を憎む」というとらえかたが肝心です。このようなストレスがたまったときは、自分へのご褒美も必要です。患者会などでは、ストレスポイントがある程度になったら「自分へのご褒美」を勧めています。

回復の方法を学ぷ

病気は必ず克服できると信じて回復の方法を学びましょう。病気の本人は、回復について否定的であり、悲観的なことを口にします。

家族がその言葉に巻き込まれることなく、「回復」を信じて前に進むことや「うつは回復できる」と繰り返し声を出すことが本人自身の力になります。日本では古来より言葉に霊がこもるといことだまう「言霊」信仰があります。「悪いことを言えば悪くなっていき、よいことを言えばよくなっていく」という考えです。私は、当事者グループや家族グループで回復者の方の発言を聞いていると、その「言霊」という言葉のパワーを感じることがあります。できるだけポジティブに考え、言葉にしましょう。

「病気であること」を理解する

うつ病の患者さんが持つ否定的な感情や、なまけているように見える態度は、頑張って支えている家族の感情を連なですることもあります。外見はどこが悪いのか分からない病気だけに、回復が遅いと家族のストレスがたまります。「怠けているわけではなく、病気がさせている症状であり、

まず第一は、ゆっくり休ませること」が治療の基本です。治療にほ半年から一年の期間が必要となりますので、「うつ病という病気である」という認識を持って接することが大切です。

「一進一退」を理解する

うつ病の回復は、一直線に回復するのではなく波状に回復します。よくなっ
たと思った矢先に無理をして、うつ状態に戻ることがよくあるので、この回復期の揺れを「自分のうつは治らない」と悲観してしまうことがよくあります。

回復期は、雨上がりの野球グランドに似ています。表面は乾いているように見えても、中はグチャグチャの不安定な状態です。そのような状態の時に、ストレスなどの負荷をかけると、足もとが不安定なため、捻挫などの怪我をしてしまいます。表面だけでなく、内側まですっかり乾燥し、しつかりとした足場の野球グランドで安心してプレイできるよう待つ時間も必要なのです。治療中の「一進一退」があることをよく理解しておきましょう。そしてそのことで一喜一憂しないようにしましょう。

大事な決定はしないこと

また、責任感の強いうつ病の人は、「周囲に迷惑をかけるから」といって「退職」や「離婿」などを口にします。うつの時期には、悲観的なことしか考えられないので、大事な決定ほ先延ばしや棚上げにしましょう。

どんなにつらくても自殺だけはしない

うつ病になると「消えてなくなりたい」「生きているのがつらい」「死ぬことばかり考える」などの「希死念慮」が起こります。「死にたい」と言われると家族は動揺し否定してしまいがちですが、そうしたSOSのサインを受け止め、本人の苦しみに共感を示すことが大切です。

あなたに死を打ち明けているのには意味があります。誰にでも打ち明けるのではないのです。手をつないで話を聴いたり、肩を抱いて体を接するようにして不安な気持ちを汲み取ってあげましょう。

また、睡眠不足が続いている、焦燥感がある、不自然な行動が目立つ場合は、急いで主治医に相談しましょう。

緊急の場合は、精神科の夜間救急を利用することもできます。心筋梗塞などの心臓発作で命の危機状態のときには、誰も受診を躊跨しません。しかし、うつ病で希死念慮があり精神的に危機的な状況になっているのになぜ受診をしないのでしょうか?

かけがえのない命を守ることは大切なことです。手遅れにならないよう、家族は自殺のサインを見逃さないようにしましょう。

家族が燃え尽きないために

自分の限界を知ることが大切です。自分だけで問題を抱え込まず、できないことは周囲の人に援助を求めましょう。

スーパーバイザーを持つことほ家族の助けになります。自分の感情を表現し、自分の人生を楽しむようにしましょう。うつ病の患者さんの前では感情を押し殺して過ごしがちですが、自分の感情を生き生きと表現し、自分の人生を楽しめる場所や時間を持ちましょう。

また、職場や家庭以外の人間関係を築くことで様々なしがらみから離れて楽になれます。完壁な妻(母)や夫(父)を目指すのではなく、ありのままの自分でよいと思うことも大切です。

うつ病患者さんは、「伝統・権威・道徳・世間などの既成の価値規範が優勢な生活環境で育ち、周囲の期待に沿うように生きてきた」人が多いといわれています。その価値観がくずれたときに「うつ状態」になってしまいます。

今まで一家の大黒柱として家族を支えていたパートナーが、自信を喪失し、依存的になったり、不満・いらだち・甘えなど様々な症状を呈することもあります。

家族は、過度の期待をせず、患者そのものを受け入れる姿勢が必要となります。また、今の自分を否定することなくありのままの自分でよいと思い受け入れることが大切です。また、あなた自身のセルフケアを心がけるようにしましょう。

最後に「家族会」で、ともに回復を目指す仲間を見つけましょう。家族会での出会いや学びは、家族であるあなただけでなく、うつ病の患者さんの回復にとても役立ちます。あなたがうつ病の正しい知識を身に付け、あなた自身が変わることでうつ病のために傷ついてしまった家族関係を修復するきっかけになるほずです。

うつ病かもしれない?と思ったあなた少し立ち止まってください

うつ病は気のもちようでどうにでもなる!と思ってこれまで様々な問題やトラブルをクリアーしてきてしまった人、やっぱり途中でダメだった人、本当はダメでも「なんとかして乗り切ってみせる!」と思って今も必死にがんばっている人、さまざまいるかもしれませんが、気のもちようでどうにかなるものではありません。

予防や再発防止、慢性期になったら物の考え方を切り替えたりリラクゼーションをすることも大切ですが、急性期は別です。

病気なのですから薬を飲んで休養することが治療の基本です。これはうつに限らずにどんな病気も同じです。うつも病気なのですから、体を休めなければいけません。元気が出ずに何も手につかない状態になると本人も周囲の人、家族、恋人、友人みんなが何かやらなければいけない!と焦りがちです。

このままではいけないと思ってしまうのが日本人の特徴的な性格と日本人特有の文化なのです。何もしないのは罪だと誤った解釈をしてしまいます。

もともと、うつ病になりやすい人はまじめで几帳面、コツコツと仕事をこなすタイプです。社会的には「いい人」の評価を得ていますし、それが当たり前だとも思っています。
ところが、その反面、がんこで柔軟性に欠けストレスを人一倍ためやすいタイプでもあるのです。

現代社会は、ストレスに満ちており行きにくい世の中になってしまいました。それに比例するかのようにうつ病になる人も増えているのです。自殺までしてしまう人もいます。

今一度、立ち止まっていただければ嬉しいです。