抗うつ薬は使うべきでしょうか? 答える人にもっよるのですが、NOと答える人もいます。
必要な状況では抗うつ剤は使っても、薬だけに頼らないほうがよいと答えます。ペニシリンが発見されたときも、多くの人がその効果を信じようとしなかったために亡くなりました。
私たちも、過去数年の間にガンの手術を拒否したために亡くなった人たちを数人知っています。有名大学の学生自治会会長が、州議会にレアトリル(杏などの核から製する制ガン剤)を合法化するように一人説得しているうちに、1977年、ガンで亡くなりました。多くの奇跡を神がおこしたからといって、神が奇跡をおこして病気を治すか、まったくそれはあり得ないかのどちらかだとする主張をそれで正当化できるでしょうか?
誇大妄想的人格でもなければ、超自然治癒は強要できません。今日、たしかに神はまれに、ある人々に超自然の治癒を与えますが、大半の人々は医療技術、投薬による常識の応用によって治るのです。
糖尿病患者で、インスリン注射が毎日必要な人はそうすべきでしょうか? それとも自分がいかに勇敢で極めて秀でていることを証明するために、インスリンを拒否して、2日のうちに昏睡状態におちいって死んでしまうべきでしょうか?
はっきり言えることは、もし自分がいかに勇敢で、秀でていることを証明したいのなら、そうやって死ぬのもいいでしょうが、しかし、私たちは生きるほうを選ぶということです。
神は私たちに与えられた常識を使うことも、また期待しておられるのだと信じます。うつよりも幸福を選ぶのです。
さて、抗うつ薬は使うべきでしょうか? ある状況下ではもちろんです。患者がうつ状態で、不眠や自殺願望を訴えてやってくると、3つの方法で治療します。
ひとつは処方薬なしで毎週の面接治療を続けることで、これだとうつは平均して6~12ヶ月で(もし最初の2ヶ月の、睡眠障害やひどい感情的な痛みを患っているときに自殺しなければ) 治ります。
もうひとつは、毎週の精神療法とあわせて抗うつ薬を出すことです。この場合だと、おそらく3~6ヶ月でうつがなくなるでしょう。
抗うつ薬を出してから最初の10日でよく眠れるようになり、また感情の改善が見られるようになり、自殺のリスクは低くなります。
3番目の方法は、入院型のプログラム。総合病院の精神科に入院していただき、毎日精神療法と投薬を続ければ1週間以内で楽になり、うつも3~6週間でなくなり、そのあと外来ベースで1~2か月の精神療法を続けるだけで良くなります。もし患者が4人の子持ちで、何ヶ月もうつのせいでつらい思いをしているのだとしたら、どのやり方が一番良いでしょうか?
自殺が現実味を増しているときに、子どもを父親なし(母親なし) にすることによって、感情的な深い傷を残す可能性を前にして、どの選択がもっとも適切でしょうか?
私たちなら、もしうつ本人が自殺のリスクがあるか、現実から逃れる(精神病的うつ) 危険カがあれば、入院はほぼ必須だと考えます。人命の賭けをする必要はありません。あまりにうつがひどく、生活上の支障がおきている場合、しかし自殺や現実から逃れる危険がない場合は、投薬しながらの外来精神療法がベストでしょう。
薬は使わなかったとあとで自慢するためにどうして3~6ヶ月もさらにうつを引きずる必要がありましょうか?
軽度のうつなら、薬は高価ですし、口が渇く、車の運転時に反応が鈍るなど、軽度の一時的副作用がありますので、投薬はしないほうがいいでしょう。
入院治療のメリット・デメリット
深刻なうつの場合の入院の利点は、以下のようにまとめることができます。
- 患者は集中的精神療法が受けられる。
- すぐに投薬調整が行なえる。
- ストレスの環境から安全な環境へ逃れられる。
- 病院の自殺防止システムにより保護される。
- 和やかな、サポートしあう、雰囲気がある。
- 改善していく他のうつの患者たちと知り合えることが勇気づけになる。
- うつの症状、感情的つらさがみるみるうちに改善する。
- 訓練された精神科看護師、他のスタッフらが精神科医のカウンセリングなどをサポートし、患者が自らについて洞察を得ることの助けになる。
- 看護師が患者の行動パターンを毎日観察しており、この情報を精神科医に伝え、患者が洞察を得るのに役立つ。
- 入院は(長期的には)長引く通院よりも安上がりである。普通保険でカバーされるからである。また患者は、比較的容易に職場復帰できる。
入院の短所には以下のようなものがあります。
- 依存性の強い人のなかには、精神科医のいる病院に入院して、うつのふりをしていることで、さまざまな責任から逃れようとする者がいる。
- 精神科への入院に村して、社会的不名誉がついてまわることがある。昇給や求職を困難にすることがある。
- 患者が入院して3~6週間後に退院すると、本人はうつを克服して楽になり、生きることに熱意を持っているような態度になるが、周囲の人たちは最初、本人を傷つけてはいけないと恐れて入院体験を聞くことをはばかる。これを本人は、個人的な拒否ととらえてしまう。
- 保険がなければ入院は非常に高価で、1994年の統計では平均1日1000ドル程度かかる。保険があっても、医療費の負担額は高い。
うつの処方薬
インシュリンのショック療法(訳者注‥インシュリンを皮下または筋肉内に注射し、意図的に低血糖性昏睡を生じさせる治療法。妄想や興奮に効果があるとされていたが、近年は向精神薬療法が一般的)や、電気ショック療法(ECT 、ESTとも呼ばれる)(訳者注‥頭部に通電させ、脳機能を改善させる治療法。
うつや妄想に効果があると言われる)を使用することはありません。健康への悪影響の可能性があるし、多くの場合、これらはほんの一時的な軽減にしかならないためです。ショックセラピーは現在のうつを治すこともありますが、
しかし本人がまたうつにならないためにはどうしたらいいかを教えはしません。精神科医のなかには、抗うつ剤をいやがる自殺願望のある患者、改善が見られない患者にショック療法を使う人もいます。
普通はこれに外来の精神療法でフォローします。私たちはまた依存性のある処方薬も使いません。三環系抗うつ薬は依存性がありません。これらは毎日就寝時、150mg、普通6ヶ月、投薬します。
その後は、セロトニンレベルが平常化すれば、抗うつ剤の服用をやめても服用していたときと同じように楽になります。近年ではトフラニール、エラヴィル、シネカンなどよりもっと効果的な薬が出ていますが、私たちはあるタイプのうつには新薬といっしょにこれらの古い薬も使います。
古い抗うつ剤と同様に、これらにも依存性はありません。リウマチ、偏頭痛、繊維筋痛、腰痛、その他の内科の病気などの慢性的な痛みには、私たちはシネカンとパキシル、あるいはゾロフト、エフレクソール、プロザックなどをあわせて使います。なぜならこれらの薬は慢性の痛みをよりやわらげ、耐えられるレベルにしてくれる痛みの限界値を上げてくれるからです。
プロザックやゾロフトを使うと大半の人が週に一ポンドから数ポンド、体重が減ります。患者がやせすぎるようだったらこれらの投薬をやめなくてはいけません。