健康の話

人は誰でも寿命の制限がある

もし、人生が150歳まであるとしたら、どんな生き方をしたいですか? たとえばあなたが40歳だったとしたら、まだ110年間もの人生が残っています。これからなんだってできるような希望が湧いてくるでしょう。これは夢物語ではありません。上手に生きれば、人は150歳は難しくても125歳まで寿命を延ばせることがわかっています。

人は誰もが「寿命の回数券」を持って生まれています。「定期券」ではなく「回数券」です。人生の長さは定められたものではなく、自分が「寿命の回数券」をどのように使うのか、その使い方しだいで決まるのです。ここでは、その「寿命の回数券」についてお話ししましょう。

「寿命の回数券」とは、細胞内にあるテロメアと呼ばれる構造体です。私たちの体は、約60兆個もの細胞からできています。それぞれの細胞は核を持ち、核の中には46本もの染色体が入っています。この染色体は、遺伝情報を担うDNA によって形成されています。

DNA は二重らせん構造を成すとても長い物質ですが、特定のタンパク質に巻きついて、最終的に英字のX状の生体物質になります。これが染色体です。さや染色体の末端には、テロメアが鞘のようにかぶさっています。染色体がほどけて不安定化が起こらないよう、守っているのです。

このテロメアこそが、人間の寿命を決定づけています。人間のテロメアは、誕生時には約1万塩基対ありますが、毎年平均して50塩基ずつ短くなっていきます。これが約5000塩基対まで短くなったとき、細胞は死滅します。細胞の寿命が尽きれば、やがて人の寿命も尽きます。1万塩基対のテロメアが5000塩基対になるまで、年50塩基封ずつ減少すると計算すると、100年かかります。つまり、人は誰もが100歳の寿命を持って生まれついていることになります。

ではなぜ、100歳を待たずに多くの人が亡くなっていくのでしょうか。このテロメアの短縮のスピードが、人によって異なるからです。これが、テロメアを「寿命の回数券」と呼ばせるゆえんです。テロメアは自分の使い方しだいで短縮のスピードは速まりもし、ゆるやかにもなります。そして、短縮のスピードをできる限り遅らせることができれば、100歳の寿命を最長125歳まで延ばせるのです。

それでは、どうすることが「寿命の回数券」を上手に使うことになるのでしょうか。

テロメアが短縮するのは、細胞分裂のときです。私たちの体を構成する60兆個の細胞のうち、毎日約2 パーセントの細胞が新しく生まれ変わっています。その数とは、1兆2000億個という膨大な数です。今この瞬間にも、古く劣化した細胞が死に、新しい細胞に入れ替わるという作業が、次々に私たちの体内で繰り返されているわけです。

そうやって細胞分裂を繰り返しながら、私たちの体は生命を維持しています。しかし、そのたびにテロメアは短くなっています。このテロメアの短縮は自然現象であり、万人に等しくもたらされるもので、防ぐことはできません。ただ一方で、個体差が大きく現れる短縮の仕方があります。それは、病気による細胞分裂です。病気によって死滅した細胞を補うときに、細胞は分裂を速めます。肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病は、細胞が死滅しやすく、分裂を速める病気です。

生活習慣病になると寿命が縮まるのは、病気がテロメアを減らしてしまうからだったのです。

「寿命の回数券」を上手に使うには、腸内細菌を元気にすることです。多くの病気は、腸内細菌のバランスの乱れから生じます。病気を予防し克服する力となる免疫の約70パーセントを、腸内細菌が決めているからです。腸内細菌が数を増やし、腸内フローラを整えるような食生活を送っていれば、免疫が増強され、病気を防ぐことができます。すなわち、「寿命の回数券」の上手な使い方とは、本書で紹介していく腸を大事にする生活術を日々実践していくことなのです。

また、活性酸素もテロメアの短縮を進めてしまう物質です。テロメアを形成しているのは、DNA とタンパク質です。活性酸素は、テロメアのD N A を分解し、タンパク質を酸化させて、壊してしまいます。活性酸素を大量に浴びるたびに、テロメアの短縮はどんどん進みます。体内の活性酸素量を増やすことは、寿命を短くすることに直結するのです。

ですから、テロメアを守るには、体内で活性酸素が発生するような行為を避けること。それとともに、活性酸素の害を消すような食物を食べること。この2つも重要になってきます。これは、腸内細菌を活性酸素の書から守る行動に重なります。腸内細菌も、活性酸素を浴びると大きなダメージを受けてしまうからです。

つまり、腸内細菌を守る生活は、そのままテロメアの短縮をゆるやかにする生活 にな るのです。

ただし、テロメアと腸内細菌の違うところがあります。一度の不摂生や病気により両者に甚大なダメージを与えてしまったとしましょう。腸内細菌の場合、それを克服すれば、腸に残っていた細菌たちががんばって働きだし、再び数を増やしていきます。しかし、テロメアは一度短縮し、消滅したものを、再生させることができません。一度使った回数券は、再び使えないのと同じです。

医者でも糖尿病を患ったことがある医師はいます。現在は、糖質制限食を実践することにより、血糖値も中性脂肪も正常値に治まり、体重も10 キログラム減って適正体重をキープしています。しかし、その二度の大病の際に、テロメアの数を大きく減らしてしまったと自覚しています。

また、若かりし頃、研究に熱中して徹夜をし、ストレスから逃避したい脳を満足させるために暴飲暴食を繰り返してしまったことがあります。テロメアの存在がまだ知られていなかった時代の話ですから、しかたがないといえばそうなのですが、あの頃にも、私はテロメアを短縮させていたはずです。

その反省から言わせてもらえば、不摂生は活性酸素を大量に発生させる悪習です。テロメアの存在を無視して2度くらい大丈夫だろう」と食生活を乱せば、そのぶんテロメアが短くなります。そのテロメアは、高齢になって後悔したところで、取り戻すことはできません。

今後、私はテロメアを慈しむようにして、「寿命の回数券」を大事にする生活をしていきたいと思っています。人生125年と思えば、まだまだ行いたいおう研究を思う存分できる気がしてきます。ともに長寿人生をエネルギッシュに謳か歌していきましょう。

腸にNGな食べ方とOKな食べ方

老化を防ぐのに一番いい方法は「My乳酸菌」 乳酸菌生成エキス

私の健康法を紹介します。

「My乳酸菌」=「自分の乳酸菌」を増やすことの重要性は数え切れないほどあります。「医者いらず」のコツはすべて「My乳酸菌」にあるといっていいでしょう。「My乳酸菌」が増えれば、老化も防げるし、病気も治るし、精神状態もよくなるし、いいことづくめなのです。最近、東北大学農学部の斉藤忠夫教授からメールをいただきました。腸管表層部を覆っている「ムチン」に多量なA BO 血液型物質が存在し、A 型やB型に相応した乳酸菌が結合しているということです。

それらの乳酸菌を「A型乳酸菌」と「B型乳酸菌」と名付けたというものです。つまり、A型の人の腸には「A型乳酸菌」が、B 型の人の腸には「B型乳酸菌」がそれぞれ定着しているということです。

しかし、最近の腸内細菌の研究では、乳酸菌は血液型だけではなく、個人個人ですべて異なることがわかってきました。しかも、その乳酸菌は生まれた直後に腸に定着し、死ぬまで同じ種の乳酸菌が生き続けていることが明らかにされたのです。

私には私の「My乳酸菌」、あなたにはあなたの「Your乳酸菌」が腸のなかにそれぞれ棲みついているということです。乳酸菌などの善玉腸内細菌が少しでも増えれば、大勢の日和見菌が味方して、体も心も健康になるのです。

私たちの老化を防ぎ、病気を治し、精神状態をよくするには自分の乳酸菌=「My乳酸菌」を増やすことが必要不可欠だということです。健康のために毎日ヨーグルトを食べましょう、とよくいわれていますが、私は食べていません。

たしかにヨーグルトのなかには乳酸菌やビフィズス菌などの善玉腸内細菌がたくさん含まれていますが、それらは「My乳酸菌」とはまったく違うものなのです。それに乳酸菌やビフィズス菌は腸に届く前に胃酸などによって約90% が死んでしまうのです。しかし、だからといって「ヨーグルトを摂ることは無意味だ」ということではありません。一部の食品メーカーは「生きて腸に届く乳酸菌」を開発して宣伝していますが、生きたまま腸に届かなくてもいいのです。

死んだ乳酸菌の細胞壁は腸の免疫柵胞を刺激して、免疫力を高めてくれます。さらに、乳酸菌が死んだときに排泄する「 乳酸菌エキス 」には「My乳酸菌」を増やす作用があるのです。

私は毎日、「 乳酸菌生成エキス 」を飲んでいます。乳酸菌は必ず「仲間の乳酸菌を増やす因子」を持っています。「 乳酸菌生成エキス 」には、その仲間を増やす因子が凝縮して含まれているからです。

おかげで、いくつか病気を経験した私でも、元気を保つことができていると思っています。ぜひ、みなさんも私の方法を参考に、腸に棲んでいる「My乳酸菌」を増やして、いつまでも元気で若々しい人生を送っていただきたいと思います。

肥満は感染する、腸内細菌が体質、性格までも左右する

腸内細菌が減少すると記憶力が低下する

腸内で腸内細菌が形作る環境を、腸内フローラと呼びます。善玉菌も悪玉菌も含めた、腸細菌叢の別称です。そして、実は「肥満は感染する」ですが、それには、腸内フローラが、大きく関係しています。

眉に唾をつけたかたも多いでしょうが、ほんとうの話なのです。肥満が感染するという論文が、2010年、アメリカの有名な科学誌「サイエンス」に掲載されました。

実験は、次のようにして行われました。腸の中に細菌を持たない無菌マウスと、肥満しているマウスとをいっしょに飼います。すると、太っているマウスの腸内細菌が、無菌マウスの腸のなかに感染し、著しい肥満になつてしまうのです。つまり、肥満したマウスの腸内フローラがコピーされたようなもの。文字どおり、肥満は、腸内細菌を介して、感染するのです。

ヒトの場合でも、やせた人の腸に棲んでいる腸内細菌と、太っている人の腸に棲んでいる腸内細菌では違いがあります。もしかすると、太った家系の人は、生まれるときに家族から腸内細菌を感染させられているかもしれません。つまり、肥満になるかならないかは、腸内フローラが決めている可能性が高いのです。そのほかにも、腸内細菌が問与している新たな事実が知られるようになってきました。

例えば、自閉症は、腸内フローラが関係していると判明しています。腸内フローラに問題がある母親マウスが産んだ子は、自閉症になります。ところが、この自閉症のマウスに、プロパイオテイクスを与えると、自閉症の症状が改善すると報告されているのです。

また、ラットを拘束して動けなくさせると、ラットにストレスがかかり、ストレスホルモンが分泌されます。ところが、ラットに前もってプロバイオティクスを与えておくと、ストレスホルモンが分泌されにくくなります。つまり、乳酸菌をとっていると、ストレスに対する耐性が生まれるのです。

近年、「キレる」子供の問題がしばしばクローズアップされますが、腸内環境が整うと、キレやすい性格が緩和される可能性が出てきました。脳の発達にも、腸内細菌がかかわっていることがわかってきました。BDNF(脳由神経栄養因子)という物質があります。脳の海馬などに存在し、神経細胞を活性化し、その増殖を促す物質です。記憶力とも関係が深いとされています。実験的にマウスの腸内細菌をなくしてしまうと、このBDNFが発現しなくなります。また、脳の海馬の近くに、人間の情動をつかさどる、扁桃体という部位があります。腸内細菌がないと、扁桃体でもBDNFが発現しなくなってしまいます。

つまり、腸内細菌が不足すると、記憶力が低下したり、無感動や無感惜になつたりする恐れがあるのです。

多品目の食品の摂取で腸内細菌の種類が増加

腸内細菌と肥満は大いに関係があります。例えば、肥満の患者さんの腸内細菌を調べると、腸内フローラが非常に乱れていることがわかります。

腸内細菌は、もともと種類が豊富で、多種多様な菌が存在しているはずです。ところが、肥満の人の腸内細菌は、実に種類が少なく、特定の悪玉菌が非常に多く見受けられます。

腸内フローラが乱れていると、メタボになりやすくなるのです。そこで、そのような場合に効果的な具体策をご紹介しましょう。

まず、ヨーグルトやキムチ、納豆などの発酵食品を食べることです。そして、できるだけ多品目の食品を食べましょう。

多品目の食品を摂取すると、その種類の豊富さに合わせて、腸内細菌の種類もふえるとされています。以前、「30品目の食品を食べよう」とさかんに提唱されたことがありましたが、腸内細菌の種類をふやすという意味では、それは的を射た提案なのです。

さらに、腸内環境は、加齢とともに変化します。若いうちは小腸の吸収力が強いため、摂取された食物は、大腸に達するころには、栄養をしぼり取られた残りカスになります。

しかし、年齢を重ねると、小腸の吸収力が低下するため、まだ栄養分が残っている消化物が大腸に届くのです。すると、腸内細菌が、異常に発酵してしまいます。

こうして悪玉菌がふえた状態が続くと、メタボになり、さらに動脈硬化、心筋梗塞、大腸ガンといった病気へつながっていくのです。

病気を予防する意味でも、若いころと同じような食生活を送ることは勧められません。より少なく食べて、大腸に栄養の残った消化物が届かないようにすることが大事です。

腸内フローラのフローラとは、花を意味します。食事を改善し、いろいろな食品を食べながら、食事の全体量をへらす。これが、美しい腸内フローラを生み出す秘訣なのです。

生きた乳酸菌が腸までしっかり届く!さらにパワーアップした『乳酸菌革命』